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37・道中⑨
しおりを挟む俺を見るラルの瞳には驚きしか存在しない。
記憶を読む魔術を行使できるものが稀少なことぐらいは、流石に俺もわかっている。だから、今度の驚きは当然の者だと受け止められた。
「だって意識がない。なら、起こして吐かせるより、記憶を読む方が早いだろ」
俺の言葉にオーシュが口を横に振った。
「だから、させないって言ってるんだ。記憶を読むってのは当然リスクが高い。どこまでかはともかく、いずれにせよ相手の記憶を追体験することになる。それが孕む危険性は、聞いただけでもわかるんじゃないか?」
しかも自分を襲ってきたような者の記憶だ。誰が護衛対象にそんなことをさせるというのか。
吐き捨てるオーシュへ、ラルも頷いている。
他の護衛達も気まずげな顔だ。
「それは……確かに。僕でも止めるよ、フィリス」
人の記憶を読むことが出来る。その事実だけでも、いいこととは思えないというラルに、俺はきゅるっと眉根を寄せた。
「だけど」
「フィリス」
咎めるようにラルに呼び寄せられる。大人しくラルのすぐそばまで近づいた俺を、ラルはそっと抱きしめた。
「危険があるようなことはしないで欲しい。お願いだ」
そしてねだるようにそう言われる。俺はちっとも納得できない。危険なんてあるとは思えなかったからだ。ただ、男たちから離れた俺にオーシュは息を吐いていて、ディーウィを見るとにこと笑っているばかり。
「どっちにしろ、こいつらがなんなのかは吐かせなきゃなんないから……誰か手伝ってくれるか?」
「では、自分が」
「頼むよ」
オーシュからの呼びかけに護衛の一人が応えていて、どうも本当に俺には手伝わさせてくれないようだと悟る。
過保護だなと思った。
そんな風にしなくてもいいのにと、そう。
なのに、不満そうな俺に気付いたのだろうラルが意識を逸らさせるためだろうか、話しかけてきて。
「フィリス。他にはいなさそうかな?」
そう訊ねられたら、どうしても意識はそちらへ向いた。
いずれにせよ、男たちのことはオーシュが連れて行ったのだ。俺に出来ることはなくなったのだろう。気を取り直して、改めて周辺の気配を悟ってみる。
そもそも、この辺りは人通りの多い街道ではないのか、近くを通る者もまばらで、こちらの方へと向かってきているような者はおらず、俺はふると首を横に振った。
「多分、大丈夫。少なくとも近くにはいなさそうだ。それに……ディーウィ」
名を呼んで顔だけ何とかそちらへ向けると、ディーウィはやはり微笑んで。
「すぐに」
俺の意図を汲んでだろうこくりと頷く。
「ありがとう。此処を中心に半径1キロぐらいで」
追加の指定にも、ディーウィはやはり頷いた。
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