39 / 236
37・道中⑨
しおりを挟む俺を見るラルの瞳には驚きしか存在しない。
記憶を読む魔術を行使できるものが稀少なことぐらいは、流石に俺もわかっている。だから、今度の驚きは当然の者だと受け止められた。
「だって意識がない。なら、起こして吐かせるより、記憶を読む方が早いだろ」
俺の言葉にオーシュが口を横に振った。
「だから、させないって言ってるんだ。記憶を読むってのは当然リスクが高い。どこまでかはともかく、いずれにせよ相手の記憶を追体験することになる。それが孕む危険性は、聞いただけでもわかるんじゃないか?」
しかも自分を襲ってきたような者の記憶だ。誰が護衛対象にそんなことをさせるというのか。
吐き捨てるオーシュへ、ラルも頷いている。
他の護衛達も気まずげな顔だ。
「それは……確かに。僕でも止めるよ、フィリス」
人の記憶を読むことが出来る。その事実だけでも、いいこととは思えないというラルに、俺はきゅるっと眉根を寄せた。
「だけど」
「フィリス」
咎めるようにラルに呼び寄せられる。大人しくラルのすぐそばまで近づいた俺を、ラルはそっと抱きしめた。
「危険があるようなことはしないで欲しい。お願いだ」
そしてねだるようにそう言われる。俺はちっとも納得できない。危険なんてあるとは思えなかったからだ。ただ、男たちから離れた俺にオーシュは息を吐いていて、ディーウィを見るとにこと笑っているばかり。
「どっちにしろ、こいつらがなんなのかは吐かせなきゃなんないから……誰か手伝ってくれるか?」
「では、自分が」
「頼むよ」
オーシュからの呼びかけに護衛の一人が応えていて、どうも本当に俺には手伝わさせてくれないようだと悟る。
過保護だなと思った。
そんな風にしなくてもいいのにと、そう。
なのに、不満そうな俺に気付いたのだろうラルが意識を逸らさせるためだろうか、話しかけてきて。
「フィリス。他にはいなさそうかな?」
そう訊ねられたら、どうしても意識はそちらへ向いた。
いずれにせよ、男たちのことはオーシュが連れて行ったのだ。俺に出来ることはなくなったのだろう。気を取り直して、改めて周辺の気配を悟ってみる。
そもそも、この辺りは人通りの多い街道ではないのか、近くを通る者もまばらで、こちらの方へと向かってきているような者はおらず、俺はふると首を横に振った。
「多分、大丈夫。少なくとも近くにはいなさそうだ。それに……ディーウィ」
名を呼んで顔だけ何とかそちらへ向けると、ディーウィはやはり微笑んで。
「すぐに」
俺の意図を汲んでだろうこくりと頷く。
「ありがとう。此処を中心に半径1キロぐらいで」
追加の指定にも、ディーウィはやはり頷いた。
19
お気に入りに追加
1,829
あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。

繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?

息の仕方を教えてよ。
15
BL
コポコポ、コポコポ。
海の中から空を見上げる。
ああ、やっと終わるんだと思っていた。
人間は酸素がないと生きていけないのに、どうしてか僕はこの海の中にいる方が苦しくない。
そうか、もしかしたら僕は人魚だったのかもしれない。
いや、人魚なんて大それたものではなくただの魚?
そんなことを沈みながら考えていた。
そしてそのまま目を閉じる。
次に目が覚めた時、そこはふわふわのベッドの上だった。
話自体は書き終えています。
12日まで一日一話短いですが更新されます。
ぎゅっと詰め込んでしまったので駆け足です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

黒豹拾いました
おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。
大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが…
「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」
そう迫ってくる。おかしいな…?
育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる