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36・道中⑧
しおりを挟む「あの……話がよく見えないんだけど……いったい、何を。それにどうやってこんなに早く」
ラルから躊躇いがちにそう話しかけられて、俺はそこでようやく俺とオーシュの二人だけで話してしまっていたことに気付いた。
きっと、ディーウィ以外にはわけがわからなかったはずだ。
オーシュが肩を竦めてこちらをうかがってきたので、俺は一つ、こくりと頷いた。
オーシュが溜め息を吐きながら口を開く。
「あ~、何から言やいいんだ。順番に行くか。どうしてこんなに早くってのは、身体操作で移動速度を速めただけだ。流石に長距離をってのは無理だが、今回ぐらいの距離なら造作もない。あいつらがいたのはここから1キロも離れてない距離だったしな」
身体操作で一時的に身体能力を上げて、移動速度を速める。逆に言うと、それぐらいが限界だったりする。出来て精々が……5キロぐらいだろうか。それ以上は体に負担がかかりすぎた。もっとも、そうなったら次は治癒魔術を使えばいいだけの話ではあるのだが、オーシュは確か治癒魔術は得意ではなかったはずだ。
今回はだいたい1キロぐらいだったので、行って帰ってきても2キロ。オーシュならそれぐらいは軽くこなす。
オーシュの言葉に、ラルたちはやはり驚いたまま。
「……なんでそんなに驚いた顔をするんだよ。身体操作ぐらいはそこの二人でも出来るぞ。特にフィリスは俺より得意だったはずだ」
オーシュの言葉に、ラルたちの視線が俺へと集まった。俺は頷く。
「確かに苦手じゃないけど……それはあんまり使わない」
だって転移魔法を使った方が便利だから。
そこまでを言わなかった所為か、ラルが少し不思議そうに首を傾げた。オーシュがまた溜め息を吐く。
「そりゃ、お前はこんな使い方しなくていいだろうよ」
身体操作は魔力を多く使用する。治癒魔術も同じく、だ。ただし当然ながら転移魔術の比ではない。しかし、転移魔術が出来るぐらいに魔力が多い者は、たかだか1キロや2キロの短い距離なら、わざわざ身体操作などというめんどくさい手段を取らずとも、転移すればいいじゃないかと考えるのが自然だった。そもそも、そう思えないような者は、転移魔術など使用できないのだから。
オーシュはラルの疑問全てに応えるつもりは初めから全くないようだった。
「で、こいつがさっき何をしようとしてたのかってことだけど、フィリスはこいつらの記憶を読もうとしたんだよ」
所謂読心術。対象に触れて、対象の持つ魔力の流れから、対象の記憶を追体験するのである。俺が得意とする魔術の一つだった。
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