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33・道中⑤
しおりを挟むどうしてそんなに驚くんだろうか。誰かが近づいてきていることに気付いたから?
だがそんなもの、武芸を嗜んでいて、ちょっと気配に敏感な者なら誰でも気づけると思う。その証拠に、俺と同じぐらいのタイミングでオーシュも気付いていた。
ディーウィはあまりそういった方面は得意ではないので、気付いていないだろうけれども、彼は護衛ではなく従者なので問題はない。護衛は兼ねていないのだから。
それとも、誰かが近づいてきていることそのものに驚いているのか。
誰も近づいてくるものなどいないと思っていただとか? だけどいずれにせよ、気配でわかる話だ。想定外だったからと言って、どうして。
俺の方こそ不思議に思って首を傾げたのだが、周囲を見回すと、ラルだけではなく、他の護衛や従者も驚いたようにこちらへ視線を投げてきていて、思わず俺はたじろいだ。
「え、何……?」
どうしてみんな、そんな驚いた顔をしているのか。
何かおかしなことでもあったのか。ぎゅっと眉根を寄せた俺に、ラルは緩く首を横に振った。
「ああ、すみません、フィリス。申し訳ない。気を悪くしないで欲しい。僕達はただ、驚いただけなんだ。君はその……随分と、気配に敏感なんだね」
困ったようにそう続けるラルに、俺はますます首を横に傾げるばかり。
「そう、だろうか? これぐらい普通だと思うんだけど」
「いや、君とオーシュ以外、誰も気づいていなかったと思うよ。ね?」
「え?」
ラルが周囲に確かめると、護衛や従者、ほとんど全員が首を縦に振っていて、どうやら本当に誰も気づいていなかったらしいと知る。
俺は逆に少し心配になってしまった。
確かに、俺が察知した誰かわからない、どこか物々しい不審な気配は、まだ此処とは少し離れたところにいる。もし、目指しているのが俺たちの所だったとして、辿り着くまでにはまだ数分、あるいは数十分はかかるだろう。でも、さっきも言ったように、そんなもの、ちょっと武芸を嗜んでいる者なら、誰でも気づける程度の者なのである。少なくとも、ナウラティスではそうだった。護衛だとか騎士だとか兵士だとか。そういった者達の中で、この程度の気配に気付かないものなどいなかったはずだ。
にもかかわらず、今この場にいる護衛も従者もラル自身も。誰も不審な気配に気が付いていなかった。
それでは本当によくないやからだったとして、襲われてしまうではないかと思った。
それが故の心配なのである。
これぐらいに気付けないままに護衛や何かだなんて。それでは安心して旅が出来ないではないかと。
自分たちはともかく、この人達は大丈夫なのだろうか。そんな風に、思わず心配してしまったのだった。
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