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*21・食べられる
しおりを挟むとさと、寝台に倒れ込んだ。
覆い被さってくるラルは、赤い目に欲を湛えて俺を見下ろしていた。
なんだかドキドキする。どうしてだろうか。これが初めてのシチュエーションだから? だって俺は誰かにこんな風に押し倒されたり、覆いかぶさられたりしたことなんてない。
ラルが初めてなんだ。
だから、こんな風に、胸を高鳴らせているのかもしれない。でも。
「フィリス」
ラルが切なそうに微笑んで、ちゅっと唇を寄せてくる。触れるだけのくちづけが、顔中に降らされた。額に、まぶたに、頬に、鼻先に。そして唇に。
触れて、でもすぐに離れて、何度も。何度も。
昼間に、馬車でそうされたのとは全然違う。だけど確かに同じ熱だ。
嫌ではなかった。むしろ何処か心地いいとさえ感じている。
どうしてだろう。わからない。
今日、初めて会ったのだ。初めて出会ってから、まだ一日と経っていない。
今日、初めて会って、すでに婚姻は成っていると言われて、ラルの国へと向かう馬車に乗った。
馬車の中で早速とばかり、初夜だなんて言われて求められたのは、正直流石にびっくりしたけど、夫婦である以上、遅いか早いかの違いだけだろうと受け入れた。
拒否をするのが面倒くさかったとも言える。
諦めた? 否、抗っても無駄だと思った。抗わなければならないほど、嫌だとは思わなかった。
抗って拒否してまで守るほど、自分の貞操に価値を見出せなかったのも本当だ。
でも、そもそもの前提として、それらは多分、はじめから俺自身がラルを、かっこいいと思っていたからというのもきっと大きい。
旦那だと言われても、まぁいいかと思えるぐらい。絶対に嫌だなんて思わないぐらい。ひと目見た時から、ラルのことはかっこいいと思っていた。
今も。こうして、俺に覆いかぶさってなお、やはりラルはかっこいい。
つまり、見た目が好みだったからかもしれない。
俺が、ラルをすんなりと受け入れた理由なんてそんなもの。あとは、容姿で好感を持ったラルが、どうやら本当に俺に好意があるらしいと理解して、だから。
だからきっと、あんな真昼間に馬車で、なんてシチュエーションでも受け入れたのだ。
それはつまり俺もすでに、ラルに好意を抱き始めているということなのだろうか。
「フィリス」
ぐちゃぐちゃと考えながら、しかしぼんやりとラルを見上げる俺に、ラルはとてもとても嬉しそうに微笑んで、でもその笑みはどこか切なそうで、そして赤い眼差しには欲。
耐えきれないと、俺を欲している劣情が滲んでいた。
そしてまた、降りてくる唇を受け止める。
次に強く押し付けられた唇は、薄く開かれ、ぬると舌に舐められたかと思うと、俺の方の唇にも、開くように促してきた。
逆らわず、うっすらと開いた口の隙間から入り込んだ大柄な体に見合った、熱くて大きいラルの舌は、ちょっと挿し入れられただけでも俺の口の中をいっぱいにする。
ラルは俺より口も大きくて、なんだか全部、食べられているみたいだ。
「んっ、んんっ……」
くちゅ、ちゅく、水音を響かせて、ラルの舌が俺の舌を絡め取る。大きな舌に口の中の全部を舐められて、引き出されたのは、昼間には感じられなかった悦楽だった。
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