23 / 236
*21・食べられる
しおりを挟むとさと、寝台に倒れ込んだ。
覆い被さってくるラルは、赤い目に欲を湛えて俺を見下ろしていた。
なんだかドキドキする。どうしてだろうか。これが初めてのシチュエーションだから? だって俺は誰かにこんな風に押し倒されたり、覆いかぶさられたりしたことなんてない。
ラルが初めてなんだ。
だから、こんな風に、胸を高鳴らせているのかもしれない。でも。
「フィリス」
ラルが切なそうに微笑んで、ちゅっと唇を寄せてくる。触れるだけのくちづけが、顔中に降らされた。額に、まぶたに、頬に、鼻先に。そして唇に。
触れて、でもすぐに離れて、何度も。何度も。
昼間に、馬車でそうされたのとは全然違う。だけど確かに同じ熱だ。
嫌ではなかった。むしろ何処か心地いいとさえ感じている。
どうしてだろう。わからない。
今日、初めて会ったのだ。初めて出会ってから、まだ一日と経っていない。
今日、初めて会って、すでに婚姻は成っていると言われて、ラルの国へと向かう馬車に乗った。
馬車の中で早速とばかり、初夜だなんて言われて求められたのは、正直流石にびっくりしたけど、夫婦である以上、遅いか早いかの違いだけだろうと受け入れた。
拒否をするのが面倒くさかったとも言える。
諦めた? 否、抗っても無駄だと思った。抗わなければならないほど、嫌だとは思わなかった。
抗って拒否してまで守るほど、自分の貞操に価値を見出せなかったのも本当だ。
でも、そもそもの前提として、それらは多分、はじめから俺自身がラルを、かっこいいと思っていたからというのもきっと大きい。
旦那だと言われても、まぁいいかと思えるぐらい。絶対に嫌だなんて思わないぐらい。ひと目見た時から、ラルのことはかっこいいと思っていた。
今も。こうして、俺に覆いかぶさってなお、やはりラルはかっこいい。
つまり、見た目が好みだったからかもしれない。
俺が、ラルをすんなりと受け入れた理由なんてそんなもの。あとは、容姿で好感を持ったラルが、どうやら本当に俺に好意があるらしいと理解して、だから。
だからきっと、あんな真昼間に馬車で、なんてシチュエーションでも受け入れたのだ。
それはつまり俺もすでに、ラルに好意を抱き始めているということなのだろうか。
「フィリス」
ぐちゃぐちゃと考えながら、しかしぼんやりとラルを見上げる俺に、ラルはとてもとても嬉しそうに微笑んで、でもその笑みはどこか切なそうで、そして赤い眼差しには欲。
耐えきれないと、俺を欲している劣情が滲んでいた。
そしてまた、降りてくる唇を受け止める。
次に強く押し付けられた唇は、薄く開かれ、ぬると舌に舐められたかと思うと、俺の方の唇にも、開くように促してきた。
逆らわず、うっすらと開いた口の隙間から入り込んだ大柄な体に見合った、熱くて大きいラルの舌は、ちょっと挿し入れられただけでも俺の口の中をいっぱいにする。
ラルは俺より口も大きくて、なんだか全部、食べられているみたいだ。
「んっ、んんっ……」
くちゅ、ちゅく、水音を響かせて、ラルの舌が俺の舌を絡め取る。大きな舌に口の中の全部を舐められて、引き出されたのは、昼間には感じられなかった悦楽だった。
30
お気に入りに追加
1,829
あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。

繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?

息の仕方を教えてよ。
15
BL
コポコポ、コポコポ。
海の中から空を見上げる。
ああ、やっと終わるんだと思っていた。
人間は酸素がないと生きていけないのに、どうしてか僕はこの海の中にいる方が苦しくない。
そうか、もしかしたら僕は人魚だったのかもしれない。
いや、人魚なんて大それたものではなくただの魚?
そんなことを沈みながら考えていた。
そしてそのまま目を閉じる。
次に目が覚めた時、そこはふわふわのベッドの上だった。
話自体は書き終えています。
12日まで一日一話短いですが更新されます。
ぎゅっと詰め込んでしまったので駆け足です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

黒豹拾いました
おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。
大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが…
「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」
そう迫ってくる。おかしいな…?
育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる