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20・我慢
しおりを挟む俺には自分を貶めたつもりなんてなかった。
「貴方は過分と思っているのかもしれませんが、僕からしてみれば少ないぐらいです。ただ、どうやら彼ら二人は貴方専属のようでしたね。貴方個人に仕えている。で、あるならば、最低限の人数になるのも仕方がないのかもしれないとは思います」
そんな風に続けられても、俺は戸惑うことしかできない。
「僕は貴方を大切に思っています。それはきっと、貴方の伯父も同じでしょう。貴方はもっとそういった方たちの好意を、しっかりと受け止められた方がいい」
困ったような顔で微笑んで、ラルは俺へと手を伸ばした。引き寄せられて、抱きしめられる。
厚い胸板。俺より、体温も随分と高い。熱いぐらいだ。
力強い腕は俺をすっぽりと包み込んでしまった。
「……――何より、僕に。貴方を大切にさせて欲しいのです」
耳元へと吹き込むように懇願され、かぁと頬が赤くなるのを自覚した。
なんだ、これは。どうしてこんな。
なんだか居た堪れなくて仕方がない。こんなにも身の置き所がない心地になったのは、きっと生れてはじめてだと思った。
「ふふ。どうなさったんです? 照れていらっしゃるんですか?」
きっと耳まで赤くなっていたのだろう、見咎められて囁かれる。
びくと体が震えた。
自分の反応もわからなければ、どうしてこうなったのかもわからない。でも。抱きしめてくる力強い腕は嫌ではなくて。そもそも、こんな風に抱きしめられることそのものが、覚えている限りでは初めてではないかとも思った。
子供の時から、俺を抱きしめる者など誰もいなかったのだから。
否、初めて会った時に、伯父には抱きしめられたのだったか。だけど、ラルの腕とは全く違っている。
とくり、とくり、心臓の音がする。
その音が俺には、自分のものなのか、ラルのそれなのかがわからなかった。だけど何処か心地いい。
熱い腕の中、なんだか溶けてしまいそうだ。
知らず、すりとすり寄ってしまっていたらしく、途端、びくとラルが震えるのが分かった。
「ラル?」
顔を上げて窺うと、ラルは真っ赤に染まった顔を必死に俺から逸らしていて。どうしたのかと不安になる。
俺の方からもラルに抱き着いた。そうしたら、俺を抱きしめるラルの腕の力が強くなって、少し苦しくなる。
「んっ、ちょ、苦しっ……」
「っ……~~! すみません、フィリスっ、今日は昼間に貴方に無体を強いてしまったからと、思ってはいたんですが……」
身じろいで気付く。ひときわ熱く、硬いものが腰の辺りに当たっている。
「ぁっ……」
思い至ってますます頬に熱が灯るのを自覚した。
そうだ、昼間もラルは我慢していたのだ。1回で済ませたのはきっと、俺を気遣っていたからだと思う。だから。
きゅっと唇を噛みしめて小さく頷いた。
「フィリス?」
名を呼ばれて、躊躇いがちに口を開く。
「いいです」
囁くような小さな声だったのに、俺の声をしっかり拾ったのだろう、ラルの腕にますます力が籠って。痛いぐらいで。でも。
この熱が、堪えられないというのなら構わない。
「……我慢、しなくていい」
だって俺達は夫婦なのだから。
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