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19・過ぎた心配り
しおりを挟む2人が部屋を出てしまうと、残ったのは俺とラルだけになる。否、俺たちだけに戻ったと言うべきだろうか。
ラルが短く息を吐いた。
「随分と……個性的な護衛ですね」
これは嫌味だろうか。
怒っているという風には見えない。
やはりにこと、笑顔を浮かべている。意図が全く透けて見えない笑み。
それはまるで仮面のようだ。でも。
「オーシュはアニエシー子爵家の出で。彼の母と俺は従姉弟同士になるんです」
だからと言うわけではない。
オーシュのあの態度はおそらく生来のものだ。
そもそも、いかに王族と縁戚関係にあるとは言え、護衛という立場であの言動はどう考えても無作法この上ないことぐらい俺も充分知っていることだった。
「なるほど、それで……」
俺の、説明にもならないそれで何を納得できたというのか。頷くラルに、俺の方こそが首を横に振る。
「普段はもうちょっと色々と気をつけてくれてるんですが、今日のあの態度は、ああすることでラルを試す意図があったのではないかと」
ただし、オーシュの見せた憤りは本物だったことだろう。
つまり、偽らずにさらけ出しただけだと言うこと。
「ふふ。試されてたんですねぇ。なら、僕の対応は合格だったのかな……」
「そこまでは俺も」
小さく笑うラルに分からないと俺は素直に返す。
俺以外がその場にいることをわかっていてなお、いつも通りすぎたオーシュの態度の意味など、俺だって正確に把握出来ている訳では無い。ただ俺が知る限りのオーシュの性格から推測しただけに過ぎず、そもそも。
「あの二人は伯父が俺へと紹介してくれて。オーシュははじめから俺に対してはあんな態度でした。でも、人に傅かれることに慣れてなかった俺には、あんな態度の方がちょうど良かった」
あの二人を宛てがわれたのは6年前。ナウラティスに行ってすぐのことだ。
人と接すること自体が、初めてと言ってよかった俺が、今のようになれたのも、あの二人のおかげと言ってよかった。
オーシュの態度はともかく、彼らの忠義と仕事は本物なのだから。
「貴方の伯父は随分と貴方を大切にしているようですね」
ラルはにこにこと笑っている。
それは今度は仮面のようなそれではなくて、俺を気遣う人間がいたことを、本当に喜んでくれているのが伝わってくるような笑みだった。
俺は頷く。
伯父は俺を大切にしてくれている。
それに何ら間違いはない。ただ。
「ええ。俺には過ぎた心配りです」
俺になんてそれほど、心を配ったりなどしなくていいのに。
ごく当たり前にそう口にした俺に、ラルがぎゅっと眉根を寄せたのが見えた。そして。
「僕の好きな人を、そんな風に貶めるのはやめてください」
などと咎めるように告げてきたので、俺は驚いてラルをまじまじと見つめてしまったのだった。
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