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14・従者と護衛③
しおりを挟む無事ね……。それはいったいどこまでを指すのだろうか。
思ったが口にはしないでおく。
ちらとラルを見ると、にこと微笑みかけられた。相変わらず底の見えない笑み。多分、俺が今ラルの方を見た理由に気付いている。
『それで。お前は今、どうなっているんだ。すぐに戻るって言っていたじゃないか。なのに連絡一つなしに……もう夕方だぞ。見たところその場所は王城とかではなさそうだが……』
俺の後ろに見える壁などの様子から何かを察して、そう訊ねてくるオーシュに、俺は隠すことなくありのままを応えた。
「ああ。今いる場所は国境付近の町にある宿の一室だよ。今夜はここに泊まるんだ」
『国境付近って……それはいったい、何処と何処の国境なんだよ。戻ってくるのにそんな場所、行く必要がないだろうが』
オーシュからの追及に流石に一瞬、躊躇した。だが、隠していたって仕方がない。もともと予定していたように戻ることが出来なくなったのだから。否、戻ろうと思えば戻れる。戻れるのだ、けれど。
「色々あって……戻れなくなったんだよ」
正しくは戻らないことにした、と言ってもいいだろうか。だが、俺に選択の余地がなかったの本当だ。
加えて俺自身、別にいいかと思ってしまった。抗っても仕方がない、と。だが、そんな俺の判断は、この従者と護衛に叱られるものだろうことも同時に自覚していた。
もっとも、彼らのことはほんのついさっきまできれいさっぱり忘れ去っていたのだけれども。
『色々って……いったい何があったって言うんだ。俺たちが聞いていたのは、学園も卒業したから、一応いったん報告に戻るってことだけだろう? すぐに帰ってくるって言うから、俺たちはお前の部屋で待機してたんだぞ』
オーシュの言うとおりだった。本当にただの報告だけのつもりだったのだ。初めから故国になど、長居する予定はなかった。
何せあの王城には、俺の部屋さえないのだ。いったい何処でどう過ごせというのか。
それでも、俺はあくまでも留学していただけで、所属としてはあそこになるから、卒業の報告に向かったのだ。
その先で、まさか6年ぶりにあった父親からあんなことを言われるだなんて思いもしない。どうやら俺は俺で冷静さを欠いていたらしいと今更自覚する。
そうでなければ彼ら二人のことを忘れたりなんかするはずがない。
とは言え、たとえ覚えていたとしても、結果は何も変わってはいなかったとは思うのだけれども。
今のこの状況は覆らない。覆す気もない。
なぜなら俺はもう、この男の伴侶なのだから。
『フィリス。その色々。詳しく話せ』
オーシュの言葉に俺は頷いた。どのみち伝えなければならないことだったのだ。それならばきっと可能な限り早い方がいい。だから。
「実は……――」
この先に彼らが受けるだろう衝撃を考えて。非常に申し訳なくなりながらも、だから俺は話したのである。ありのまま全てを、彼らに。
当然、話し終わった俺に待っていたのは、耳がおかしくなるぐらいのオーシュからの怒号だった。
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