14 / 236
12・従者と護衛①
しおりを挟むそうして俺達は真昼間、動く馬車の中で初夜を済ませた。
1度で済んでよかったと俺は安堵した。
なにぶんラルは俺の中から抜け出る時でさえ、熱く昂ったままだったのだ。
そのまま続けて求められてもおかしくはない状況で、だけどラルは我慢してくれたのである。
いくら治癒魔術が使えて、ある程度の体の不調など治してしまえるとは言ってもあのような行為が負担とならないはずがない。
それも馬車の中で続けて何度もなんて。あのまま更に求められていても、俺は拒みはしなかっただろうけれど。
だって俺とラルは既に夫婦なのだから。
数時間前に初めて出会ったばかりなのだけれども。
夕方頃。国境近くの街で馬車は止まった。
どうやら今夜はここで宿を取るらしい。
小さな町なので当然上等な宿などなく、数人の護衛以外はそのまま野宿となるのだそうだ。
「狭い部屋しかご用意できないようなのですが……」
申し訳なさそうな顔をするラルに俺は首を横に振る。
別に構わない、気にしない。
そもそも、留学する前までの環境を思えばどんな宿だってしっかりと寝台の上で寝られると言うだけで上等だと思うほど。
今日、後にしたあの王城の中では本当に、俺の居場所など与えられていなかったのだから。
ちなみに留学期間中は過分な程の待遇を与えてもらうことが出来た。伯父曰く、
「これは君に対する正当な扱いだよ」
との事だったけど。
と、そこで、懐に所持している通信機が強く反応していることに気づいた。
「あ」
そこでようやく思い出す。
今日は色々あってすっかり失念していた。
「フィリス? どうかしましたか?」
相変わらず、ラルのエスコートで馬車を降りて、ラルに促されるまま歩いている途中、突然立ち止まった俺にすぐに気づいたのだろうラルがこちらへと振り返る。
俺は困ったような顔でラルを見た。
「いや、連絡が……そう言えば入れ忘れていたな、と」
言いながら通信機を取り出すと、なるほどとラルは頷いた。
頷いて、だが、すぐに不思議そうに首を傾げる。
「通信、ですか? どなたと、とお伺いしても?」
別に隠すようなことではなかったので、俺は構わないと首肯した。
「俺の従者と護衛です。伯父が付けてくれていて」
それぞれ1人ずつのたった2人。
それでも祖国ではついぞ1度もついたことのない存在だった。
「仮にも王子だというのに、なんと言うっ……!」
それを初めて知った時の強い伯父の憤りは今でもよく覚えている。
そうして伯父が用意してくれた2人だった。
「ああ、ナウラティスの」
「ええ。今回はそちらに2人を残してきたんです。すぐに連絡すると約束して。だけど」
それをすっかり忘れていた。
もっとも、連絡できるような状況でもなければ、俺にそんな余裕はなかったけれど。
「なら、さぞかし心配していることでしょう。早く連絡してあげて下さい」
気遣わしげに促すラルに、俺はしっかりと首を縦に振った。
「はい、そうします」
30
お気に入りに追加
1,829
あなたにおすすめの小説


そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。

罰ゲームって楽しいね♪
あああ
BL
「好きだ…付き合ってくれ。」
おれ七海 直也(ななみ なおや)は
告白された。
クールでかっこいいと言われている
鈴木 海(すずき かい)に、告白、
さ、れ、た。さ、れ、た!のだ。
なのにブスッと不機嫌な顔をしておれの
告白の答えを待つ…。
おれは、わかっていた────これは
罰ゲームだ。
きっと罰ゲームで『男に告白しろ』
とでも言われたのだろう…。
いいよ、なら──楽しんでやろう!!
てめぇの嫌そうなゴミを見ている顔が
こっちは好みなんだよ!どーだ、キモイだろ!
ひょんなことで海とつき合ったおれ…。
だが、それが…とんでもないことになる。
────あぁ、罰ゲームって楽しいね♪
この作品はpixivにも記載されています。

繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?

言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、

淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる