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プロローグ・はじめまして!
しおりを挟む「フィリス。紹介しよう。お前の旦那だ」
「は?」
6年ぶりにあった、俺を溺愛していたはずの父親は。挨拶もそこそこに、にこにこと喜ばしいとばかりに笑いながら、見たこともないイケメンを、俺に紹介してきたのだった。
いや、待ってほしい。
状況を整理しよう。
俺の名前はフィナリスティア・ナウラティス・コリデュ。ここ、コリデュア王国の第一王子だ。
ただし王位継承権はない。が、実は他の国の王位継承権は持っていたりする。とは言えそちらもほとんどないに等しいのだけれど。
何故そんなことになっているのかというと、ただ単に俺の出自がそうだというだけの話。
父は今、目の前にいるコリデュア王国の国王だ。
だがしかし母は父の横で相変わらず俺を睨むことしかしない王妃ではない。
ならば不義の子かと思うかもしれないけれども違う。側室や愛妾の子供ですらなく、俺を産んだ母は他国の王族だった。
それも、この周辺国では一番大きな大帝国の王族だ。立場としては、先代皇帝の王弟となる。
しかし母は少々、どうにもならない病気を患っていて、それもあり父とは婚姻できるような状況ではなく、それでも母に恋い焦がれてやまなかった父が、追い縋って何とか俺を作って生んでもらったのだそうだ。
そうして俺は生まれて一年のみ母のもとで育ち、僅か生後一年で母から引き離され、その後はここ、コリデュアの王国で育てられることになったのだった。
王妃は俺が引き取られて1年後に父の元へと輿入れしてきた。
俺に王位を継がせたくない重臣たちからの懇願に、父が屈した末のことで、だが、俺の出自は確か過ぎた。
その上、父の執愛は母にしかなく、王妃の相手は最低限。王妃よりも俺の方が構われているぐらいで、当然、王妃は俺の存在など面白くなく、その更に三年後、正式に王位継承権第一位となる弟を生んでからは余計に、俺の存在など、邪魔にしか思えないものになっていったようだった。
それを知って見かねた母の兄、つまり伯父がちょうど学齢に達したのをいいことに、自国の学園へと俺を呼び寄せたのが今から6年前。13歳の時のこと。
それから俺は母の祖国で6年を過ごし、今日、卒業したことだし、いずれにせよ一度国には戻らなければと、ここ、コリデュア王国へと父へ報告しに帰ってきたばかりだった。
今、俺はそうして帰国の挨拶を父にしていた所のはずだ。
6年ぶりに顔を合わせた父は、相変わらず俺には非常に好意的で、反面、王妃の視線は氷のように冷たい。むしろ明確に睨み付けてきている
いつも通りだ。
王妃はもともとこの国の高位貴族の出。確か侯爵か何かの出身だったと思う。
にもかかわらず、面白いほど……失礼、恐ろしいほど……否、えー、身分に似合わず、大変素直な性質をしており、俺への嫌悪を全く隠せないような女性だった。おそらく、自分を偽る必要などなく育ってきたのだろうと思う。
王妃の実家というのは、それだけの立場をこの国で有しているのである。
父も王妃の俺への嫌悪は理解しているはずなのだが、直接、俺に何かするのでもなければ、それは仕方がないことだと認識しているらしい。それどころか、自分が俺を構うから余計に王妃が頑なになっていることはわかっているようなのに改める様子などさらさらなく、そうしている間は王妃の関心が俺、あるいは父自身に向かっていることは悪いことではないとすら考えているようなのだった。
なにせ王妃は大変に素直で、彼女の攻撃性が外へ向かうのが良くないという意識ぐらいは父にもあるらしい。助言を受けたとかで、厳しい視線ぐらいは我慢して欲しいとまで言われたことがある。……――父は少々視野が狭いのだ。考えが浅いと言えばいいのか。人が悪いわけでもなければ、俺をかわいがっているのは本当なのに、その割に俺の状況を正しくは把握しておらず、それがつまり、気性のよろしくない王妃を抑える為に、ひいては王妃の実家を後ろ盾として自分が思うがままに振舞う為に、俺という供物を捧げるに等しい行為だということへ思い至っていない。
加えて王妃の俺への態度を大変に軽んじていて、何も気付いていない辺り、逆に凄いと感心した。
そして俺も俺で父に言われるまでもなく、王妃の仕打ちなどに興味がなかったのもあり、そんなものなのだろうと認識して育ってきていた。
それはともかく、今の問題はもう一人いる、父の隣に立っている初めて見る男性の方。
今、父は何といっただろうか。
「へ? ち、父上、今なんと?」
俺は流石に聞き返した。
その、初めて見る男……―――とんでもなく顔がいいイケメンだ。その男を、なんと言っただろうか。
「だから、お前の旦那だ。婚姻はすでに済んでいるから、お前はすでにフィナリスティア・リヒディルだよ」
「はい?」
もう一度聞いてもわけがわからない。
とりあえず俺には知らない間に、旦那が出来ていたらしい。
それは全く、何も予想すらしていないことだった。
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