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補足その他ちょっとだけ続きとか
x-8・愛の言珠⑧
しおりを挟むアンリセア嬢は遠く、何かを思い出しながら話し続けた。
「私が何度もロディス様に会いに行くのは、ロディス様にとってはご迷惑だっただろうと思います。ですがロディス様は拒絶したりはなさいませんでした。きっと拒絶するほどにも興味がなかった。何も思われておられなかったから、私が何をしていても、どれだけロディス様にお会いしに行っても、何も気になさっていらっしゃらなかったんです。勿論、ロディス様をお慕いしていた気持ちは本当です。私は私なりにお邪魔にはならないように気を付けてはいましたし、ロディス様の助けになりたい、そういう気持ちもありました。だからこそ多分ロディス様は、私を拒絶なさったりなさらなかったのだと思います。邪魔でもなかったというだけなのでしょう。リティ様に何度もお話をさせて頂きに参りましたのも、私自身の感情に、素直に従った結果でしたわね」
今思うと、愚かだったと思います。
私はあまりに独りよがりだった。
何も返せない俺に向き直って、彼女は小さく微笑んだ。
「私も何故、というのはわからないんです。今のように理由を付けるのならば、ロディス様が私に興味を持たれていなかったからということになる。それもきっと私にとっての真実でしょう。こうして言葉にしてみると、私の好意は、報われないが故のものだったようにも思います。私はロディス様に何かを求めていたわけではありません。でも、ただ傍にいたかった。もしかしたら自分という存在を、許容され続けたかったのかもしれません」
それはどれだけ聞いても、俺が求めている答えではないような気がした。
少なくとも、俺とは違う感覚で彼女は彼女なりにロディスに惹かれていたのだろうことしかわからない。
「私は私のこの行為が他の人の理解を得られ辛いものなのだろうという自覚があります。しかし誰にはばかるようなものだとも思ってはおりません」
ただロディスが好きだった。それは胸を張って言えることだと彼女は言い切る。その姿勢は俺には眩しく、人の感情というものは、そんなものなのかもしれない、そう思った。
「ですが……だからと言って、あのような我が儘は通すべきではなかった。ロディス様のお力になりたかった。そんな理由だけで、あの事故は片づけられるようなことではございません。ですから……」
だからもう、俺たちに近づかない。
それが、聞けば結局、誰からも責められることはなかったという彼女なりのけじめなのだろう。
俺はそんな彼女の選択に口を挟むつもりなんてなかった。
「あの……それで、その。私がロディス様のどこが好きなのかというお話のお応えはこれでよろしかったでしょうか?」
ややあって、途端、不安そうにそう確かめられ、俺は微笑んで頷いた。
「ああ、参考になったよ、ありがとう。おかしなことを聞いて悪かった」
「いいえ、おかしなことだなんてそんな……近々、入籍なさるのだと聞いています、ご自身の伴侶が誰かから好意を寄せられていて、それが気にかかるのは当然のことだと思いますわ。相手が自分の伴侶のどこに惹かれているのかが気になるのも、おかしなものではないと……それに私もお話をお聞き頂けて良かった。自分を見つめなおせたような気がいたします」
俺をやんわりと窘めながら、そんな風に言葉を締めくくった彼女は、どこかすっきりと晴れやかな顔をしているような気がした。
「そうかな? だったらよかった」
俺もどこかほっとした気持ちで彼女を見た。
いつも泣いている可愛らしい少女。
そんな彼女がこの時ばかりは、なんだか逞しく見えたのだった。
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