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補足その他ちょっとだけ続きとか
x-5・愛の言珠⑤
しおりを挟む俺の質問に、アンリセア嬢は涙に濡れた紺色の瞳をぱちり、驚いたように瞬かせた。
「え、ロディス様の好きな所、ですか?」
いきなり何を、と言わんばかりの様子に俺は頷く。
こんな話を彼女に聞くのはきっと良くはない、それはわかるのだけれど、だからと言って他に聞けそうな人も思い浮かばなくて。
ロディスは別にモテないわけじゃない。
なにせ見た目がいい。
男らしく、かっこいい、そう言い切っていいだろう。
魔力量だって、次期伯爵と考えれば十分なぐらいには多く、魔術士団では隊長職までになっている。
少しばかり無表情で無口ではあるけれど、全く話さないわけでもないし、正確だって悪くはない。
勿論、人それぞれ好みはあるだろうけれど、人によっては理想的な男性だと見えることだろう。
現に学生時代から今まで、ひっそりとロディスに見惚れていると思わしき女性や、たまに男性までも数えきれないぐらいに見かけてきた。
だからモテないわけじゃないはずなのだ。
しかしその反面、明確にロディスに好意を抱いている知り合いを、俺は彼女以外に知らなかった。
まさかただ見惚れていたというだけの見ず知らずの者に話しかけるわけにもいかず、なら、こんなことを聞ける相手など、彼女いないにいないのだ。
ロディスの部下になる第二部隊の隊員は、当たり前だが、慕ってはいてもそれだけ、それ以上の感情を抱いていそうな隊員など全くいるように思えないし、俺の部下となる第三部隊の隊員に至っては、むしろロディスを嫌っているものまでいる有様で。
本当に彼女以外にいなかったのである。
「えぇっと、そのぉ……」
彼女は泣き止んではいたが、頬を真っ赤に染めて、物凄く言いづらそうに言い淀んでいた。
こんな様子も可愛いなぁ、思いながら、俺はただひたすら彼女の言葉を待つ。
そのまましばらく、一歩も引かない、と言わんばかりの真剣な俺の様子に、ついには諦めたのだろう彼女は、ようやく躊躇いがちに口を開いた。
「……ロディス様は、私を意識していらっしゃいません」
まず初めにそう告げて、アンリセア嬢は少しだけ寂しそうに小さく微笑んだ。
「リティ様はご存じかと思いますが、私はその、なんていうか……小さい頃から、涙腺がとても弱くて。そんなつもりはないんですけど、すぐに泣いてしまって」
感情の制御が難しいのだと彼女は言う。
俺が認識している通りの彼女の性質とでも言えばいいのか、ただの今までの事実だった。
「泣くと皆さん、いろいろと気を回して下さるんです。とてもありがたいんですけど、私、それが心苦しくて。なら泣かなければいいとお思いになるかもしれませんけど、自分ではどうにもできなくて。これでもいろいろと試してみたりはしたんですよ? でも、どうにもならなかった」
彼女曰く彼女なりに、自分のすぐに感情が高ぶってしまう性質をどうにかしようとはしてきたらしい。だが、実を結ぶことはなく。
「ロディス様の、一番初めに好きになったのはあの見目です。なにせ一目惚れですから。小さい時に一目見て、私はロディス様を好きになりました。リティ様にもご無理を言いましたよね、近づかないで、なんて」
ふふ。
私はそのようなことを言えるような立場ではないのに。
そう続けた彼女は微笑みながら、だけど何かを懐かしむような、あるいは痛みに耐えるかのような顔をしていた。
これではまた、泣きだしてしまうのではないか、一瞬思ったが、そんなことはなく、彼女は話を続けていく。
俺はただ、精々が時折相槌を打つぐらいで、口を挟まず、ただ彼女の話の続きを待った。
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