上 下
76 / 82
補足その他ちょっとだけ続きとか

x-3・愛の言珠③

しおりを挟む

 ちなみにかくいう俺もたった一回しか、あいつに対して好きだとかいう言葉を口に出したりしていない。
 そもそも嫌いだと思っていた期間が長すぎて、どうしてもそういったことを告げることに、抵抗を感じてしまう。
 素直になれない。
 そんな自分は自覚している。
 それがあまり良くないことであるのも。
 だけど今更自分は変えられない。
 だからもう少し時間が欲しい。
 俺はそんな風に思っていて、それでも、もしロディスから求められたら。言わずにはいられないかもしれない自分も知っていた。
 だって俺はロディスのことが、好き……なの、だと、思う、のだ。
 少なくとも、失いたくない、のは間違いないし、ずっと一緒にいたいとも願っている。
 ロディスは俺に仕事を辞めろというくせに、自分が仕事を辞めることなんて全く考えてなどいない。
 危険が伴う仕事であることは間違いないのだ。
 この間のようなことが、今後、起こらないとも限らない。
 だからこそ、言わずに後悔しないよう、自分の気持ちはちゃんと伝えていこうと考えていた。
 ただ、その肝心の自分の気持ちが、まだ整理しきれてはいなくって。
 嫌いはそんなにも簡単に好きには変わらない。
 本当は初めの初め、自分がロディスのことを気にしていた、嫌いだとばかり思っていたけれど、それは好きだからこそ、俺は好きなのに嫌われている、と思っていた、からこそ。言わば嫌い返していたようなものだ。
 いつだって苦しかった。
 あいつの不機嫌な顔なんて見たくなかった。それはつまり、結局、好きだと思う気持ちが心の奥底にあったからこそなのだろう。
 あいつに対して吐いていた暴言はきっと全部、俺自身の心を守る鎧だった。
 俺が今更、そう簡単に好きだとかなんだとか告げられない理由はそんなものなのだが、ならばあいつはどうなのだろうかと考えてみる。
 あいつは俺と違って、自分の気持ちに気付いていなかった、わけではない、はずだ。
 はっきりとは聞いていないが、多分。
 つまり、あいつがそういう言葉を口にしないのは、俺とはきっと違う理由。
 それはいったい何なのだろう。
 どれだけ考えてもわからなかった。
 ならばもう聞くしかないのだろうと開き直る。
 幸い、あいつとの時間なんて、これからいくらでも持てるのだから。

「うん、そうしよ」

 俺はサーラとあんな会話をした後も、変わらず書類仕事に埋もれながら、そんな決意を小さく固めていた。
 俺のうっかり漏れた呟きが聞こえたらしいサーラから、怪訝そうな眼差しを寄越されたが構わない。
 俺は結局、言葉が欲しいのだ。
 だってなんだか言葉一つないだけで、ロディスの俺への気持ちが、言葉にするまでもないような軽いものなんじゃないか、なんて思ってしまうのが嫌なのだ。
 俺がもしかしたら、ロディスが言葉を惜しむ存在であるのかもしれないと、考えることに抵抗を感じる。
 だから、ロディスから言葉がもらえない理由が知りたかった。
 理由を知ったからと言って納得できないままかもしれない。
 だけど知りたい、そう思う。
 そんな風に、とりあえずは俺の中で、ある程度の応えは出たのだから、サーラからの視線なんて。
 まぁ……なんとなく、気まずくは感じたのだけれど。
 気恥ずかしさを感じて頬を赤くしてしまったのは、きっと仕方のないことだったのだとも、俺はそう自分に言い聞かせたのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

本日のディナーは勇者さんです。

木樫
BL
〈12/8 完結〉 純情ツンデレ溺愛魔王✕素直な鈍感天然勇者で、魔王に負けたら飼われた話。  【あらすじ】  異世界に強制召喚され酷使される日々に辟易していた社畜勇者の勝流は、魔王を殺ってこいと城を追い出され、単身、魔王城へ乗り込んだ……が、あっさり敗北。  死を覚悟した勝流が目を覚ますと、鉄の檻に閉じ込められ、やたら豪奢なベッドに檻ごとのせられていた。 「なにも怪我人檻に入れるこたねぇだろ!? うっかり最終形態になっちまった俺が悪いんだ……ッ!」 「いけません魔王様! 勇者というのは魔物をサーチアンドデストロイするデンジャラスバーサーカーなんです! 噛みつかれたらどうするのですか!」 「か、噛むのか!?」 ※ただいまレイアウト修正中!  途中からレイアウトが変わっていて読みにくいかもしれません。申し訳ねぇ。

平民男子と騎士団長の行く末

きわ
BL
 平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。  ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。  好きだという気持ちを隠したまま。  過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。  第十一回BL大賞参加作品です。

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

天使様の愛し子

東雲
BL
『天界の嫌われ者についに罰が下った。 多くの天使達は、天界唯一の汚点とも言える者が報いを受けたことに安堵し、平穏な日々が訪れたことを喜んだ。 嫌われ者の大天使が、誰にも気づかれず、ひっそりと息を引き取ったことも、その瞬間、誰に祝福されることもなく、新たな命が生まれていたことも知らずに────』 神様と天使達がいる世界のお話。 ふわっと設定なファンタジーの世界。 嫌われ、のち愛され。山も谷もありませんが最初は谷からのスタートです。 ※総受け愛され系の一妻多夫なお話になります(全員×受けという訳ではありません) ※ガタイの良い見た目だけは俺様系筋肉美丈夫受け(中身は幼児)(なに受けと言えばいいのか分からず迷走中です…ガチムチではないですが、6パックに割れた腹筋とたわわな雄っぱいが魅力の褐色男性受け) ※美人、美青年、可愛い子攻め。 弱々な受けちゃんをひたすらに愛でて囲って慈しんで貪る溺愛系攻めと無自覚愛され系受けが書きたかった次第です。 ★第9回BL小説大賞にて、奨励賞を頂きました!★ 初創作、字書き歴も2mmくらいのペーペーの作品ですがお付き合い頂けましたら幸いです。

もうすぐ死ぬから、ビッチと思われても兄の恋人に抱いてもらいたい

カミヤルイ
BL
花影(かえい)病──肺の内部に花の形の腫瘍ができる病気で、原因は他者への強い思慕だと言われている。 主人公は花影症を患い、死の宣告を受けた。そして思った。 「ビッチと思われてもいいから、ずっと好きだった双子の兄の恋人で幼馴染に抱かれたい」と。 *受けは死にません。ハッピーエンドでごく軽いざまぁ要素があります。 *設定はゆるいです。さらりとお読みください。 *花影病は独自設定です。 *表紙は天宮叶さん@amamiyakyo0217 からプレゼントしていただきました✨

処理中です...