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補足その他ちょっとだけ続きとか
x-3・愛の言珠③
しおりを挟むちなみにかくいう俺もたった一回しか、あいつに対して好きだとかいう言葉を口に出したりしていない。
そもそも嫌いだと思っていた期間が長すぎて、どうしてもそういったことを告げることに、抵抗を感じてしまう。
素直になれない。
そんな自分は自覚している。
それがあまり良くないことであるのも。
だけど今更自分は変えられない。
だからもう少し時間が欲しい。
俺はそんな風に思っていて、それでも、もしロディスから求められたら。言わずにはいられないかもしれない自分も知っていた。
だって俺はロディスのことが、好き……なの、だと、思う、のだ。
少なくとも、失いたくない、のは間違いないし、ずっと一緒にいたいとも願っている。
ロディスは俺に仕事を辞めろというくせに、自分が仕事を辞めることなんて全く考えてなどいない。
危険が伴う仕事であることは間違いないのだ。
この間のようなことが、今後、起こらないとも限らない。
だからこそ、言わずに後悔しないよう、自分の気持ちはちゃんと伝えていこうと考えていた。
ただ、その肝心の自分の気持ちが、まだ整理しきれてはいなくって。
嫌いはそんなにも簡単に好きには変わらない。
本当は初めの初め、自分がロディスのことを気にしていた、嫌いだとばかり思っていたけれど、それは好きだからこそ、俺は好きなのに嫌われている、と思っていた、からこそ。言わば嫌い返していたようなものだ。
いつだって苦しかった。
あいつの不機嫌な顔なんて見たくなかった。それはつまり、結局、好きだと思う気持ちが心の奥底にあったからこそなのだろう。
あいつに対して吐いていた暴言はきっと全部、俺自身の心を守る鎧だった。
俺が今更、そう簡単に好きだとかなんだとか告げられない理由はそんなものなのだが、ならばあいつはどうなのだろうかと考えてみる。
あいつは俺と違って、自分の気持ちに気付いていなかった、わけではない、はずだ。
はっきりとは聞いていないが、多分。
つまり、あいつがそういう言葉を口にしないのは、俺とはきっと違う理由。
それはいったい何なのだろう。
どれだけ考えてもわからなかった。
ならばもう聞くしかないのだろうと開き直る。
幸い、あいつとの時間なんて、これからいくらでも持てるのだから。
「うん、そうしよ」
俺はサーラとあんな会話をした後も、変わらず書類仕事に埋もれながら、そんな決意を小さく固めていた。
俺のうっかり漏れた呟きが聞こえたらしいサーラから、怪訝そうな眼差しを寄越されたが構わない。
俺は結局、言葉が欲しいのだ。
だってなんだか言葉一つないだけで、ロディスの俺への気持ちが、言葉にするまでもないような軽いものなんじゃないか、なんて思ってしまうのが嫌なのだ。
俺がもしかしたら、ロディスが言葉を惜しむ存在であるのかもしれないと、考えることに抵抗を感じる。
だから、ロディスから言葉がもらえない理由が知りたかった。
理由を知ったからと言って納得できないままかもしれない。
だけど知りたい、そう思う。
そんな風に、とりあえずは俺の中で、ある程度の応えは出たのだから、サーラからの視線なんて。
まぁ……なんとなく、気まずくは感じたのだけれど。
気恥ずかしさを感じて頬を赤くしてしまったのは、きっと仕方のないことだったのだとも、俺はそう自分に言い聞かせたのだった。
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