【完結】酔った勢いで子供が出来た?!しかも相手は嫌いなアイツ?!

愛早さくら

文字の大きさ
上 下
72 / 82

71・結末

しおりを挟む

 不思議だ。
 俺はロディスが嫌いだった。
 そしてロディスに嫌われていると思っていた。
 だけど、今、隣にいる。
 そして、どうしてだろう、俺は今、ロディスに嫌われているなんて、全く思っていなかった。

「リティ、リティ、心配なんだ、やっぱり仕事はもう少し休もう」

 出勤しようと身支度を整える俺を、引き留めるようにロディスが包み込んで縋りつく。

「お前、そう言って何日俺の復帰延ばしたと思ってんだよ。大丈夫だって言ってるだろ?」
「でも、リティ、」
「しつこいっ!」

 俺はイライラしながらロディスを邪険に扱う。
 だけどロディスはそんな俺の態度など全く気にした様子がなかった。
 あの事故・・から一ヶ月。
 俺自身の状態としては、1週間もする頃には、特になんと言うこともなくなっていた。
 元々怪我をしたわけでも何でもなく、ただ単に魔力が足りなくなっていただけ。
 足りなくなっていた魔力を充分に補給できれば、なんと言うこともない。
 実際、目が覚めた時にはまだ魔力不足の傾向はみられたけれど、そこから二日も経つ頃には、そんな不調はなくなっていて。
 勿論、献身的に丁寧に執拗にこれでもかと、ロディスが魔力を注いでくれたおかげではあるのだけれども。
 一度あれほどまでの大怪我を負って、治癒魔術によって治癒されたとはいえ、魔力が足りていない状態となっていただろうロディスは、自身を顧みず、今度は俺へと魔力を注ぎ続けたのだそうだ。
 そんなロディスに周囲の者、皆が協力して魔力を渡したのだとも聞いた。
 それこそ、あの任務を共におこなっていたサーラや他の隊員、ロディスの両親や、駆け付けた俺の両親、兄姉妹、そしてあのアンリセア嬢までもが皆、ロディスへと魔力を渡し、ロディスは受け取った魔力を根こそぎ自身に馴染ませ、自分の魔力へと変換し、全て俺へと注ぎこんだのだそうだ。
 どうやら俺は本当に危険な状態となっていたらしく、つなぎ留められてよかったとロディスは泣いた。
 ロディス以外にも、いろいろな人に物凄くたくさんの心配をかけてしまったようで、出来る限りのお礼は告げたのだが、体調が戻っても、ロディスはなかなか俺を、仕事へ戻そうとはしなかった。
 あんなことがあったのだから仕方がないとは思う。が、しかし。
 1ヶ月である。
 縋るロディスを無碍に出来ず、もうすっかり体調などは戻っているというのに、一ヶ月も休まされたのだ。いい加減、限界という物だろう。
 ちなみにアンリセア嬢は、俺の体調が戻ってすぐ、直接謝罪にと訪れてくれて、俺はあれは事故のようなものだろうと思っていたので構わなかったのだが、ロディスは初めて見るかのような、非常に険しい対応を彼女に取っていた。
 それは俺に対する不機嫌など、目ではないほどの明確な怒りで、かと言って直接言葉などで詰るわけでもなく、睨み付ける程度の物ではあったのだけれど、畏縮いしゅくしきってやはり泣きだしてしまったアンリセア嬢を俺は放っておけず宥める羽目になってしまったほどだった。
 別に彼女の所為じゃない。
 否、もしかしたら彼女がいなければ起きなかった事故ではあるのかもしれないけれども、それでも彼女が望んであんな事故が起こったわけではないのだ。
 なのにあんなにも怖い気配をぶつけるだなんて。
 だけどロディスを窘め、取り成す俺に彼女は首を横に振って。

「いいのです。ロディス様のお怒りもごもっともですわ。そもそも私があのような我が儘を言わなければよかったのです。ですからこれは私が受けなければいけない怒りなのでしょう」

 そんな風、泣きながら、だけど言い切っていた。
 彼女も今は色々と理解出来ているのだろう、無理に同行を願い出た自分を恥じていた。
 もしかしたら彼女は、本当はとても強い人なのかもしれない。そんな風に思った瞬間だった。
 ともあれ彼女は自制の意味も込めて、もう二度とロディスには近づかないと誓った。
 勿論、社交の関係などであってしまうことはあるかもしれないけれど、それでも極力近くには寄らないと、そう。
 俺からも、勿論ロディスからも距離を取ると。
 彼女がそう決めたのなら、俺に何か言えるようなことはなかったし、そもそも別にもともと彼女とは全く親しくない。
 これまでと同じだ。
 ロディスは彼女に対する怒りを最後まで解かなかったけれど、それでも別に何かを言うようなこともなかった。
 また、それとは別に様子を見に来てくれた両親や兄弟たちには俺は散々からかわれることになった。

「愛されてるわね」

 なんて、放っておいて欲しい。
 顔が赤くなるのが止められなかった。
 そんな俺を見て、両親たちはますます笑うばかりだったのだ。
 でも、今なら俺だってわかっている。
 ロディスは俺のことが好きだ。
 きっと、愛してくれている。
 ちなみにロディスが俺を見て顔を歪めるのは変わらない、というか、表情だとかに関しては今まで通りだ。
 でもそれが嫌っている故ではないことを、今の俺は知っていた。
 つまり、今までもずっと、嫌われているわけではなかったことを。

「リティを、見ると……顔が、おかしくなってしまいそうで、それで……」

 ようは、照れたりだとかにやけたりだとか、そういう顔になりそうなのを堪えようとして、あの歪んだ表情であったらしい。
 正直、馬鹿じゃないのか。思ったけれど、あの不機嫌そうな顔が全部、実は俺が好きだったからなんだと言われて、俺は全然悪い気がしなくて。

「その、変な顔、と、やらも……俺は見たいんだけど」

 なんてとりあえず訴えておいたら、ロディスは言葉に詰まって、

「うっ……そ、の……怒、力、する……」

 なんて、やっぱり物凄く不機嫌そうな顔で答えてくれたのだった。
 その努力とやらは今のところちっとも実を結んでいるようには見えないが、まぁいいかと思っている。
 嫌われているわけではなかったというのならそれでいい。
 ロディスの歪んだ顔の意味も、今の俺はわかっているのだから。
 そして俺は少しだけ、自分に素直になることにした。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

博愛主義の成れの果て

135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。 俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。 そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...