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☆54・左腕
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※この話と次の話には、若干(?)の流血表現などが含まれます。
苦手な人はご注意ください。とはいえ治ります。
+++++
先行した者の方が危険度は高い。
ただ、魔の森というのは元々魔素濃度が高く、他よりもずっと濃い魔力が渦巻いていて、魔力による探査がほとんどできない場所と言ってよかった。
特に、魔獣化していない獣や人などは探知できても、一度魔獣化してしまうと周囲の魔力と同化してしまい、目視か、あるいは樹々などの揺らぎ、足音など以外ではまったく判別することが出来なかった。
その上、音などとなると、必ずしも魔獣が立てているものとは限らず、ただの風の音であったりすることもしばしばで。
あれほどまでに狂暴であるというのに殺気を放っているわけではなく、目についた動く者へと反射的に攻撃を仕掛けているに過ぎず。
とにかく、気配を感じられないのだ。
魔獣との戦闘により死傷者が出てしまうのはそうした理由で、つまりは全く予想もしていなかったところからいきなり攻撃を仕掛けられるようなことが発生しうるのである。
そういった事情もあり、先行ではないからと言って安全とは限らなかった。
なにせ、一度何も異変がないことを確認したところだけを進むと言っても、突然、横や背後から魔獣が現れることもあり得るのである。
だからこそ警戒は怠れず、危険であることはわかっていて。
油断があったとは思わない。
不慮の出来事とは言え、結果的にアンリセア嬢によって乱れてしまった隊列のまま、自然、ロディスとアンリセア嬢は最後尾を進むこととなってしまった。
俺ともう一人が先行し、残る一人と彼ら二人が後ろから着いてきている。
その並びで歩き出したはじめこそ、ロディスは相変わらず不機嫌な顔をしていたが、仕方がないと諦めたのか、結局は何も言わなかった。
もしかしたら俺が、見える位置にいた方がいい。
そうも思ったのかもしれない。
アンリセア嬢はロディスの横にいられるようになった為か、とても弾んだ様子で、心底嬉しそうに頬を染めていた。
誰が見ても可愛らしいその表情。
にもかかわらずロディスが一切の興味を示した様子がないところが、何とも言えない気持ちになった。
とはいえ、当のアンリセア嬢はそんなロディスの反応に慣れているのか何なのか、ただただ嬉しそうにしているばかりで、気にしている素振りは一切なかったのだが。
彼ら二人と共にいたはずの隊員も、流石になんとなく気まずく思ってしまったのだろう、先行する俺達と最後尾の彼ら二人のちょうど真ん中ぐらいを歩くことにしたらしかった。
とは言え、いずれも距離にしては数メートル。充分に視界に入る位置。
それほど気にしなくていいだろうと判断して、そのまま歩き続ける。
先に言ったサーラたちに追いつけるとは思わなかった。
なにせこちらはアンリセア嬢に合わせて、普段より歩く速さを落としているのだ。
前方で何か問題が発生して立ち止まるだとかでない限り合流することはないだろう。
だから、油断していたわけではなかった。
魔力での探査が出来ない分、出来るだけ周囲の音にも気を付けていたつもりだ。
だが、先にも述べた通り、魔獣の気配にはどれだけ注意していても気付けない時がある。
この時も。木々の揺れる音やそういったものは、一切耳に届かなかったように思う。
気付いたのは、
「きゃあああっ!!」
と、いうアンリセア嬢の悲鳴が響き渡ってからのことで。
慌てて振り返り後ろを向いた時には、すでにことは起こっていた。
飛び散る血しぶき。
怯え切って震え、腰が抜けたのかへたり込んだアンリセア嬢の。
その前方、庇うように立ちふさがったロディスの左腕があるはずの場所には、勢い良く噴き出した血の軌跡しか見えなかった。
「ロディスっ!!」
苦手な人はご注意ください。とはいえ治ります。
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先行した者の方が危険度は高い。
ただ、魔の森というのは元々魔素濃度が高く、他よりもずっと濃い魔力が渦巻いていて、魔力による探査がほとんどできない場所と言ってよかった。
特に、魔獣化していない獣や人などは探知できても、一度魔獣化してしまうと周囲の魔力と同化してしまい、目視か、あるいは樹々などの揺らぎ、足音など以外ではまったく判別することが出来なかった。
その上、音などとなると、必ずしも魔獣が立てているものとは限らず、ただの風の音であったりすることもしばしばで。
あれほどまでに狂暴であるというのに殺気を放っているわけではなく、目についた動く者へと反射的に攻撃を仕掛けているに過ぎず。
とにかく、気配を感じられないのだ。
魔獣との戦闘により死傷者が出てしまうのはそうした理由で、つまりは全く予想もしていなかったところからいきなり攻撃を仕掛けられるようなことが発生しうるのである。
そういった事情もあり、先行ではないからと言って安全とは限らなかった。
なにせ、一度何も異変がないことを確認したところだけを進むと言っても、突然、横や背後から魔獣が現れることもあり得るのである。
だからこそ警戒は怠れず、危険であることはわかっていて。
油断があったとは思わない。
不慮の出来事とは言え、結果的にアンリセア嬢によって乱れてしまった隊列のまま、自然、ロディスとアンリセア嬢は最後尾を進むこととなってしまった。
俺ともう一人が先行し、残る一人と彼ら二人が後ろから着いてきている。
その並びで歩き出したはじめこそ、ロディスは相変わらず不機嫌な顔をしていたが、仕方がないと諦めたのか、結局は何も言わなかった。
もしかしたら俺が、見える位置にいた方がいい。
そうも思ったのかもしれない。
アンリセア嬢はロディスの横にいられるようになった為か、とても弾んだ様子で、心底嬉しそうに頬を染めていた。
誰が見ても可愛らしいその表情。
にもかかわらずロディスが一切の興味を示した様子がないところが、何とも言えない気持ちになった。
とはいえ、当のアンリセア嬢はそんなロディスの反応に慣れているのか何なのか、ただただ嬉しそうにしているばかりで、気にしている素振りは一切なかったのだが。
彼ら二人と共にいたはずの隊員も、流石になんとなく気まずく思ってしまったのだろう、先行する俺達と最後尾の彼ら二人のちょうど真ん中ぐらいを歩くことにしたらしかった。
とは言え、いずれも距離にしては数メートル。充分に視界に入る位置。
それほど気にしなくていいだろうと判断して、そのまま歩き続ける。
先に言ったサーラたちに追いつけるとは思わなかった。
なにせこちらはアンリセア嬢に合わせて、普段より歩く速さを落としているのだ。
前方で何か問題が発生して立ち止まるだとかでない限り合流することはないだろう。
だから、油断していたわけではなかった。
魔力での探査が出来ない分、出来るだけ周囲の音にも気を付けていたつもりだ。
だが、先にも述べた通り、魔獣の気配にはどれだけ注意していても気付けない時がある。
この時も。木々の揺れる音やそういったものは、一切耳に届かなかったように思う。
気付いたのは、
「きゃあああっ!!」
と、いうアンリセア嬢の悲鳴が響き渡ってからのことで。
慌てて振り返り後ろを向いた時には、すでにことは起こっていた。
飛び散る血しぶき。
怯え切って震え、腰が抜けたのかへたり込んだアンリセア嬢の。
その前方、庇うように立ちふさがったロディスの左腕があるはずの場所には、勢い良く噴き出した血の軌跡しか見えなかった。
「ロディスっ!!」
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