52 / 82
51・吐露
しおりを挟むいつもは馬を駆る道を馬車に揺られて向かう。
そうするとなんとも言えず落ち着かない気持ちになった。
何となく心の中がもやもやしているのは先ほど見たアンリセア嬢の様子が気にかかっている所為だろうか。
広くもない、かと言って窮屈というわけでもない馬車は四人乗り。
向かいの席にサーラが腰かけ、互いの隣には、他の隊員が乗り込んでいる。
二人とも治癒魔術の得意なあまり大柄ではない隊員たちで、サーラの横にいるのが、今回の人員の中では数少ない女性隊員で、俺の隣にいるのは男性隊員だった。
もう一方、ロディスやアンリセア嬢の乗っている馬車に乗っているのは、さて誰だったろうか。
どうでもいいことに思考を巡らせる俺をちらと見て、サーラが少し眉根を寄せたまま口を開いた。
「つまらなさそうなお顔をなさっておられますね」
「ん? 俺か?」
「ええ」
指摘され、自覚がなかっただけに首を傾げる。
「なんだかどうしても、気にかかることがあるというようなお顔でもあります」
「気にかかること……」
そんな風にまで言われ、頭をよぎったのは勿論、アンリセア嬢とロディスのこと。
俺は誤魔化すでもなく肩を竦めた。
「今回は隊員以外が同行しているからな。そりゃ気にもかかるさ」
気にならない方がむしろおかしい。
「確かにそうですけど……それだけでもないように見えますよ」
サーラの眼差しが何処か気遣わしげに思えるのは、俺の心情をあるいは見透かされでもしているということなのだろうか。
それぞれの隣にいる隊員は口を開こうとしなかった。
元よりこの移動も任務中に含まれる。
別に仕事中の私語を禁止しているわけでもないが、なにぶん、今向かっているのは魔の森で、和気あいあいと和やかに話しながら向かうような任務であるはずもなく、自然隊員たちの口数が普段より減ってしまうのは、ある意味ではいつも通りのことと言えた。
加えて今は、俺とサーラが話し始めたというのもあるのだろう。
邪魔をしないでおこうとでも思っているのかもしれない。とはいえ。
それだけでもない。
そういったサーラの言葉をなんとはなく頭の中で反芻した。
気にかかる。
それは今回、隊員ではないアンリセア嬢が同行しているから。
でも、それだけではない、何か。
思い当たるようなそうでもないような言いようのないもどかしさが俺の中で渦巻いていく。
先程のアンリセア嬢の様子が、どうしたって思い起こされた。
ロディスのことを大変に慕っているのだと、見るだけでわかる、嬉しそうにはにかむように染まった頬。
自分の気持ちがわからない。
そんな風、立ち止まっているかのような俺とは違う。
きっと彼女は自分の気持ちをわかっている。
わかっていて、迷いなく、ただロディスを慕っている。
そこに含まれる恋心は、いっそ眩しいほど俺の中では輝いて見えて。
「……羨ましい。そう、思っている部分があるのかもしれない」
気付けばポツリ、知らずそう呟いていた。
「リティ隊長?」
サーラが目を瞬いて驚く。
「あ……いや、今のはっ」
呼びかけられ、ようやく俺は自分が何を口にしたのか気付いて、慌てて誤魔化そうとして結局やめた。
とは言えぽつり、ただ願う。
「いや。……忘れてくれ」
誤魔化す必要性は、感じらえなかった。
「……はい」
サーラもサーラで、もの言いたげなままではありつつも静かに頷いてくれて。そこから魔の森に着くまで、馬車の中には沈黙が横たわり続けたのだった。
57
お気に入りに追加
1,116
あなたにおすすめの小説


新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。


【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる