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37・納得
しおりを挟む結界とはナウラティスで広く、どこででも使用されているそれを指す。
国全体を覆っているものと効果は同じ。いわゆる悪意と害意を弾き、拒んだ。 悪意や害意を持つ存在は、結界を通り抜けることが出来ないのだ。
そしてその結界は幾重にも重なってナウラティスの中になら、ないところを探す方が難しい。
それこそ、明確に結界が張られていないのは敢えてその状態を保っているスラムとそこから国境までの細い道ぐらいのものだろう。
それは結界を通り抜けられなくなった者達が国外へと至る数少ない道でもあった。
なにせこの結界という物は、地域、街、区画、道、店、家、部屋、公共施設に至るまでどこにでも張られているものなのである。
この結界に弾かれるようになってしまった者はナウラティスではまともに生活していけない。
当然この屋敷にも張られているし、その中でも更に細分化された区画、そして勿論、この部屋自体にも施されていた。
それら全てにロディスが妨げられていないということはつまり、ロディスのこの行動は全く俺への害意だとか悪意だとかが理由ではないということに他ならない。
だがそれと、理由そのものがわからないことは別の話。
悪意だとか害意だとかではない。ならいったい何だというのだろう。
本当にただの責任感だとでも言うのだろうか。
(あり得ない)
すぐに否定する。
俺にはどう考えても、ロディスのこの行動が、責任感故のものとは思えなかった。
(わかっている。俺はもう、多分、知っている)
その上でなお、理解できないだけの話。
「ロディス」
次に呼んだ名は自然、宥める色を濃くしている。
ロディス。
仕方のない奴だ。そんな風に、今にも続けそうな声音だ。
「なぁ、俺は別に此処にいるのが嫌なわけじゃない。お前から……あー、その、なんだ、魔力を注がれるのだって、俺はそこまで拒んではいないはずだ」
ほとんど反射的に嫌だとかなんだとか抗ったりしてしまうのは許して欲しい。
本意でないことは間違いないので。
「子供が出来たんだ、育てる為には魔力がいる。それは構わないんだよ」
「なら、」
「ただ」
なら、いったい何が問題なんだ、ならそれでいいじゃないか。
きっとそんな風に続けたかったんだろうロディスの言葉を、俺は短く遮った。
ただ。
「それでも、だ。この部屋に閉じ込めたままなのも、俺を仕事へ行かせないのも、それは違う話だろう、ロディス」
いい加減にしてくれ、付き合いきれない。
「お前は何も言わない。そんなのに大人しく従えるわけなんかないじゃないか」
俺は充分に従った。もう流石に限界だ。
何も難しい話でなんてない。
俺を納得させてほしい。
ただ、それだけの話だった。
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