31 / 82
30・両親
しおりを挟むサーラに対して、あいつの両親に挨拶さえできていない、そうこぼしたからなのかなんなのか知らないが、何故か翌日にはあいつの両親と挨拶を交わすこととなっていた。
元々、両親同士が親しいのだ、必然、幼い頃から知っている相手。それほど気負うようなことではない。……はずだった。
ロディスの両親というのは、元は二人とも騎士をしていたのだと聞いている。
俺の父とロディスの父とが幼い頃からの友人で、学園でも同級生であったらしい。
そしてそこに、いつしかロディスの母も加わった。
とは言え、ロディスの父はその人が俺の父とも親交を深めるのをあまり良しと出来ず、それほど親しくできなかったと以前言っていたのを聞いたことがあるので、結局親しかったの父親同士だけだと思っておそらく間違いないのだろう。
今は家族ぐるみで付き合いがあるのだが、それも父と母が結ばれたが故なのだとか。
ロディスの父は大変に独占欲が強く、嫉妬深いらしい。
ロディスの両親はかつて二人揃って王都騎士団に入隊し、しかし爵位を継ぐのと同時に退隊、婚姻し、ロディスを授かったのだそうだ。
今は二人で主に領地の管理などをして暮らしていたはずだ。
まだ当分は爵位を引き継ぐ予定もないので、それまではと、ロディスはいずれ退職しなければならないこと前提で魔術士団に就職したのだと聞いていた。
特に珍しい話でもない。むしろ爵位を継ぐ予定のある者の間ではよくある話とさえ言えた。
そんなロディスの両親だが、実はこの王都にある伯爵邸ではほとんど過ごしていなかった。
なにせロディスの実家となるホソバトゥエ伯爵家の領地には転移施設がなく、移動には少しばかり時間がかかった。
ロディスの両親は普段は領地にある伯爵家の本邸にて領地管理等の仕事に就いており、王都で長く過ごすことはほとんどないと聞いている。
しかし社交などの関係もあるので、それなりの頻度で行き来しているのだとも。
ちなみに俺の実家であるクェラリージ侯爵家の領地は王都のすぐ隣で、これは我が家が比較的頻度高く騎士を輩出している家系だからなのだそうだ。実際に父は今も近衛騎士団に所属している。
なお、同じく転移施設はないが、なにぶん隣の領地となるので、行き来にはそれほどの時間を必要とはしなかった。
ともあれ、普段はここにいない方たちなので、挨拶をしていないとは言っても、そもそもここにいるのか領地にいるのかすら俺にはわからず、別に物凄く気にしているというわけでもなかった。
ただ、一言もなく滞在しているのはどうなのだろうとはちらと思っていたけれど、それだけ。
ロディスの両親は、王都にいる間はここに住んでいる。だが、王都にだけ住んでいるわけではないのだから。
もっとも通信用魔導具など、連絡手段はあるのだから、やはり挨拶ぐらいはせねばならないのではないかと思う部分も勿論あった。
だが。
「子供が出来たんだってね? 嬉しいよ、リティ。うちのバカ息子はようやく君のことを落とせたらしい」
「念願をかなえられたようで安心した。いったいいつになるやらとヤキモキさせられたからなぁ」
「ロディスは君に似ているからね。奥手で意気地なしだ」
「おいおい、詰るなよ。見た目はお前そっくりじゃないか」
朗らかに笑いながら、理解しがたい、否、理解したくないことを話すこの人達こそロディスの両親で、ロディスとよく似ている、大変に雄々しい男性が彼の母である。
それよりはやや小柄な、しかし充分に男らしい男性が彼の父。
元騎士だというだけあって、二人とも大変に羨ましい見た目をしていた。
「いやぁ、しかし君が我が家へ来てくれるとなると、家が大変華やかになるなぁ!」
「うちにはむさ苦しいのしかいないからね。だからついつい侍従なんかは、可愛らしい感じの子を雇ってしまいがちになるんだけど」
「何を言っている! お前だって俺にとっては華だぞ!」
「はいはい、そういうのはいいから」
仲が良くてなによりなのだが、そんな風に終わらない軽やかなやり取りからわかったのは、どうもあの、俺がどうにも強く出ずらいか弱い侍従は、その見た目もあって雇われているらしいということ。それも彼の母親の趣味で。
そしてこの二人はもうすっかり俺が嫁いででも来たかのように認識していて、その上、大変に歓迎されているらしいということだけだった。
俺は笑顔が引きつりそうになる。
どう答えて良いのかわからない。嘘を吐いたり誤魔化したりなどしたくはなく、しかしこの大変嬉しそうな様子を見るに、水を差すのも心が咎めて仕方がないからなのだった。
49
お気に入りに追加
1,116
あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる