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28・仕事
しおりを挟むそんな俺の様子を見ていたサーラが、クスッと、思わずと言ったように小さく噴き出す。
俺はしんなり眉をひそめた。
「何がおかしい」
俺は今、ただサーラに、ここ数日のことを伝えていただけに過ぎない。
噴き出すような要素など、何もなかったと思うのだけれども。
「いいえ、意外に元気そうでしたので、少し安心しただけです」
サーラは今度はやんわりと、穏やかな表情で微笑んだ。
彼女にも心配をかけてしまっただろう自覚があるだけに、俺はぎゅっと眉根を寄せて、気まずさにさっと視線を逸らした。
「それは……まぁ、もう、大丈夫だよ」
ぼそと小さくとても言いたくないとばかりに呟く。
そもそも魔力が足りなかっただけの話、注がれたのなら何も問題はない。
「それよりも、仕事の方は問題はないのか?」
なにせ俺は倒れてそのまま。職場にはまったく、連絡一つ取れていない。
気になるのは当たり前だった。
「ロディス隊長が自ら率先して変わりを担っておられますから、今はまだそれほどには。影響はほとんどないと言っていいでしょう」
俺はその話に、やっぱり眉をひそめてしまう。
「ロディスが?」
「ええ。ご自身の責任だとおっしゃって」
「ふん。責任ね……」
俺は考えたくもないという風に吐き出した。
いったい何の責任だというのか。俺から仕事を取り上げることさえ、あいつの言う責任だとでも言うのだろうか。
「隊長が今、ロディス隊長のお子様を身ごもっていらっしゃるのはあの朝にはすでに知れ渡っていたことですし、その後体調を崩されていらしたのも皆、わかっていたことですから」
それでむしろ納得した者もいるようだと肩を竦めながらサーラは告げた。
何処までも面白くない話だ。
だからと言って隊員は皆ロディスを受け入れたとでもいうのだろうか。
ロディスもロディスだ。
隊長職というものは全く持って暇ではない。熟さなければならない書類だけで多岐に渡る。
魔の森の見回りや何かあった際の出動、訓練などもある。
それを2隊分だなんて。
その割にはここ数日、特にロディスの帰りが遅かったりなどと言うような覚えはない。
むしろあいつは心配になるほど早い時間に俺の元へと帰ってくるかと思うと、そのまま、随分と長い時間、魔力を注ぎ続けるのである。
いっそ付き合うだけでも一苦労だというような有り様だった。
おかげで魔力は十二分に足りているが、別な意味での不調、特に倦怠感などは、全く常に抜けきらないまま。
今も体の奥には、ロディスの魔力がまるで渦巻くようにとどまっている。
子に注いでなお、あふれ余っているそれだった。
「一応ご自身の隊に関しては、随分と手伝ってもらっているみたいですね。むしろほとんどうちの隊のことだけしているようなものですから」
上手く調整しているのだろうとサーラは言う。
それはそれでどうなのだろう。
「何をやってるんだ、あいつは……」
俺はただただ呆れかえるばかりだった。
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