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24・焦燥

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 俺はあいつが嫌いだった。それはずっと昔から。
 何故ならあいつが羨ましかったから。
 そしてどうしてだかあいつに嫌われていたからだ。
 だが、今のようにあいつを拒絶するようになったのは、実はきっかけがあったからだった。
 あれはそう、まだ学園に入る前。
 同じような年頃の貴族ばかりが集められた、お茶会か何か。
 社交の一環。
 俺もあいつも参加していて、そして……――

『どうかあの方に、近づかないでくださいませっ』

 幼く甲高い声が、耳の奥によみがえった。……――と、しかしそこで思考が途切れる。
 バタンっ、派手な扉の音。それ以上に派手な魔力。

「リティ!」

 俺は余程体調が悪いらしい。この男が近づいてきていることに、全く気付いていなかった。

「…………ロディス……」

 歪み視界で僅かに見上げる。
 珍しく不機嫌な顔ではなく、焦った顔をした男が其処にいた。
 何もおかしなことではない。
 何故ならサーラはこの男を呼びに行っていたのだから。
 この男がここに来ることはわかっていた。ただ、こんなに近づくまで気付かなかったのは、俺の体調が悪かったからなのだろう。

「ああ、なんてことだっ、リティ! お前は馬鹿かっ! なんで、こんなになるまで……くそっ!」

 口汚く悪態を吐きながら、珍しく情けない顔をしたロディスが、何処かおろおろと俺に手を伸ばしてくる。
 その顔がなんだかおかしくて俺は笑った。
 頭が痛い、気持ちが悪い、目が回る。ロディスも一緒に、回っている。

「リティ?」
「はは、変な顔だ」

 情けない顔。おかしな顔。それは俺が初めて見るロディスの表情だった。

「うるさいっ!」

 また悪態を吐いて、今度こそロディスが俺に触れた。
 途端、触れ合った所から魔力を流し込んでくれているのがわかる。
 じんわりと温かくて、そして。

「…………気持ちいぃ……」

 ふっと楽になっていく心地よさに、俺の意識がとろりと溶けた。

「? リティ? おい、リティっ! しっかりしろっ! リティ! リティ!」

 どこか必死な顔をして、ロディスが俺を呼んでいる。
 それがわかっていても、もう、俺はそれ以上。ふわと揺蕩う意識を、留めることが出来なかった。
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