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23・自問
しおりを挟む彼女がロディスを呼びに部屋を出て、一人きりになった隊長室の応接スペースのソファの上、堪えきれず横になった俺は、頭痛によりまったくまとまらない中、それでも思考を巡らせていた。
自分自身を見つめ直していたと言ってもいい。
どうしてこんなことになったのか。やはりそれは理解できない。
なにせ記憶がない。したたかに酔っぱらっていたのは確かだ。つまり正気ではなかったということだ。
正気ではない状態でロディスと体を重ねた。それは間違いないことだろう。子供まで出来ているのだから間違えようがない。
問題はその後、その後だった。
俺とロディスは仲が悪かった。
あいつはいつも何故か俺に対して怒っていたし、そうされてあいつに好意的な感情なんて抱けるはずがなく、俺もあいつのことが大っ嫌いだった。否、大っ嫌いになっていった。
いつからだろう。
いつから、あいつのことをこんなにも嫌いになっていったのだろう。
幼い頃からだ。
わかっている。
俺の持っていないものを全部持っているあいつ。
男らしい容姿も、逞しい体も、魔力操作の腕も全部、全部だ。剣術や体術だってできる。……――俺と違って。
伯爵家の嫡男。そんな身分自体はどうでもいい。なにせ俺も侯爵家の生まれだ。俺は三男だけれども。別に三男だとか長男だとかを問題視しているわけでもない。
別に爵位が欲しいわけでもないし、侯爵家を継ぐのは順当に長兄となるだろう。
それに不満も不足もなかった。
俺は家族に愛されている。
それは全く疑っておらず、何か足りないものなんて本当に何もなかったのだ。
ただ、見た目だけ。
女性めいて小柄で、母に似たこの容姿だけ。それだけが少しだけ気になるだけ。
だから男らしい見た目のあいつが羨ましくて堪らないだけ。
あいつは俺を嫌っている。間違いない。
だっていつも俺にだけ厳しい顔ばかり向けるのだ。笑いかけてきたことなんて一度もない。
それでどうして嫌わずにいられるのか。
どうして俺が嫌われているのか。それはどれだけ考えてもわからなかった。
多分小さい時は気にしていたような気もする。
だが次第にそんなこと、気にすることはなくなっていった。
何故ならあいつのことが、俺も大っ嫌いになっていったからだった。
そんなあいつはどうしてか、責任を取ると俺に言った。
子供が出来た、責任を取る、俺を嫁にする、仕事も辞めさせると、そう。
わけがわからなかった。
本当に何もかも、何一つとして理解できない。
子供が出来た。一夜の過ち。酒の所為、記憶がない。
それ自体は仕方がない、思えなくもない話だった。
だけど。
あいつはなぜか当たり前の顔をして、俺を嫁にすると言った。
俺を嫌っているはずのあいつが、だ。
俺を睨みつけたまま、あいつははっきりそう言ったのである。
責任を取る、子供が出来たのだから子供を育てる、本当は嫌だろうが何だろうが、それが責任なのだから協力する。
それ自体はわからなくもない話だった。
今の俺のこの状態を考えても、多少強引にでも魔力を注ぐのは、実際あり得ない手段ではない。
特に子供を育てるともなれば、それはむしろ必須と言っていいだろう。
だが、それと婚姻は別だ。
もしかしてそれほどまでにあいつは子供を欲していたとでも言うのだろうか。
たとえ相手が誰であっても、子供が出来た以上、いやいやであっても婚姻を結ぶと?
いったい何の冗談なのか。
子供が欲しいだけならば、相手などいくらでもいたことだろう。
実際にあいつは非常にモテるのだ。独身の女性や一部の男性で、あいつに憧れない者の方が少ない。
勿論好みもあるだろうから、全員とまでは言わないけれど。
あいつが望みさえすれば、あいつと子供を作りたい相手などいくらでもいることだろう。
なのによりによって俺。
俺を嫁にするという。嫌っているはずのこの俺を!
思考はいくらでも繰り返す。堂々めぐり、わからない。
だけど本当は一番わからないのは、出来た子を散らせない俺。先程のサーラで思い知った。きっと、ロディス以外には、今触られることさえ嫌悪してしまうだろう俺自身だった。
「ああ、本当に……なんで……」
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
俺はいったいどこで間違えたのか。
頭が痛い。
横になっているというのに、地面がゆらゆら揺れている。
眩暈。
吐き気がして、でも何も吐けそうになんてなくて。
きっともう、起き上がれないだろう。
俺は今、それぐらいの不調を感じていた。
思い出す、思い出す、考える。それは、そうただあいつのことだけを。
まぶたの裏に浮かぶのは、大っ嫌いなロディスの顔だった。
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