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12・容姿

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 俺は自分の見た目が嫌いだ。
 女性と同じか、精々少し高いぐらいしかない低い背丈に母親によく似た女みたいな顔。
 嫌に明るいピンクの髪に、寒々しい青紫の瞳。
 疾うに成人しているというのに、年相応になど見られない。
 それどころか、美少女のようだとか、可憐だとか、嬉しくもない評価ばかり受けてきた。
 確かに見目はおそらくいいのだろうとは思う。
 思うがそれは、決して俺が求めているものとは違っていて。その所為で、憧れていた剣術だとか体術だとかは、碌に習うことさえできず。結局俺は、辛うじて抵抗が少なかった、魔術の腕を磨くこととなったのである。
 俺自身、性格的にそういう風に魔術の研鑽を積むことを、全く苦痛とは思わなかったのでそれだけはよかったと素直にそう思う。
 とは言え、容姿を元にした偏見とでも言えばいいのか、そういうものについても、この国はまだまし・・だとは聞いている。だが、まし・・というだけ。
 見た目から勝手なイメージを抱いたやつらは、皆、俺にやはり好き勝手な幻想を押し付けた。
 バカにしている。
 相手にそんな意図なんてないことはわかっていても、どうしてもそんな風に感じてしまう。
 今日のロディスはその中でもとびっきりにひどかったけれど。
 体の負担? いったい誰の所為なんだか。俺を誰だと思っている。治癒魔術一つ扱えないとでも思っているというのだろうか。
 バカにされているようにしか思えなかった。
 その上で可憐だなんて。

「久しぶりに聞いたな、あんな言葉……」

 それこそ、学生の時などには、毎日のように聞いてきた、聞きたくもない賛辞・・だった。
 そうは言っても俺の容姿なんて、目が大きいのもあって、ぱっと見の印象が可愛らしく見える程度、そこまで整っているというわけでもないだろうに。
 みんな過剰に反応し過ぎなのだ。それでも、少女めいた顔つきをしていることは間違いない。
 いっそこんな容姿でさえなければ。
 思っても、だけど自分に似ていて嬉しいらしい母親や、母親に似ていると溺愛してくる父親を思えば、勝手に変えてしまうことも出来なかった。
 両親が嫌いなわけでは決してなかった。愛されていることを、疑ったりなどしていない。姉弟仲が悪いわけでもないし、姉のことも、兄のことも信頼している。
 髪だっていっそ短く刈ってやろうと思ったら、もったいないだとかなんだとか、周囲の者全員に反対されて、それさえ突っぱねきれなかった。
 俺の魔力が兄弟の中で一番多いのは、言ってしまえば両親の愛の証だ。
 だけど、そんなこと全部がわかってはいても、俺はどうしても自分の容姿を好きになることが出来なくて。
 もっと逞しくありたかった。
 男らしく、背だって高く、体の厚みだって、もっと、もっと……!
 そうしたら、きっとロディスだって。あんなことを言ったりしなかったかもしれないし、そもそもいくら酔っぱらっていたからって、どうにかなったりしなかった。
 溜め息を吐いた。
 隊長室に一人。
 俺は机に向かって、裁いても裁いても何処からともなく出現する書類仕事を、黙々と片づけていっていた。
 この部屋で俺の補佐をしてくれていることの多いサーラも今はいない。
 彼女も彼女で仕事があるのだ。俺の書類の手伝いだけが、彼女の仕事というわけではなかった。
 あの時追い出して以降、流石のロディスももう一度押しかけてくるなどと言うこともなく、もしかしたらサーラに何か言いくるめられたのかもしれないと思う。
 あのやり取りを目にして、何も思わなかったはずもない。
 朝と、あの時の様子から見ても、あの男はどうやら、俺が思っていた以上に自分勝手な人間だったようだから。
 そうでもなければ、なんであんなことを。

「あいつはいったいどういうつもりなんだ……」

 小さく呟く。
 彼女がロディスにいったい何をどう言ったのやら。気にならないというと嘘になるが、だからと言って彼女のことを問い詰めようとは思わなかった。

「嫁ぐ、ということは、結婚、か……俺とロディスが? 冗談だろう」

 吐き捨てるように呟いて、だけどすぐに視線を下に向けた。
 自分の腹部。
 ロディスの魔力を核として、子供と成ってしまっているその場所。

「子供……」

 どれだけ忌々しく思っても。今の俺は、体の隅々にまで、ロディスの魔力が満ちていた。
 おそらく、いくら必要だからと言って、今しばらくは子供への魔力も足りたままなのだろうと思えるぐらいにはたっぷりと。
 だが、それがいつまでも持つものではないことぐらい、俺にだってわかっている。

「一週間、という所か……」

 俺がロディスと触れ合わずにいられるだろう期間。
 きっとそれが限界だ。
 特に今は、子供が成ったばかり、これからだいたい約一ヶ月ぐらいは、本当は特に魔力を必要とする時期で。それもなしに、いったい自分はどれだけ保てるというのだろう。
 精々、一週間が限度だろうということぐらい、俺には充分わかっている、でも。

「今更、どんな顔して、これからあいつと付き合っていけって言うんだ……」

 嫌い合っているはずの相手なのだ。そんな相手の子供だなんて。なのに。

「なんで、俺は、この子を……」

 今ぐらいの時期ならば、子供を散らしてしまうことも出来た。
 俺は魔力操作に長けた魔術士なのだ。そんなこと本当は造作もない。なのに。
 俺はどうしても、成してしまったこの子供を、どうにかすることなんて出来なかった。
 自分で自分のことが全くわからず、俺の頭の中は、今、これまで経験がないぐらいぐちゃぐちゃだった。
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