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10・権限
しおりを挟む俺は苦い顔で首を横に振った。
先程、動揺して思わず立ち上がってしまって、そのままつい、ぼうっと扉の方を見てしまっていたのに気付いて、敢えてすとんと座り直す。
深く、大きく溜め息を吐いた。
これでたぶん彼女にも、俺が動くつもりがないことは伝わったのだろう、彼女もまた、小さく溜め息を吐いている。
今更だ。それに出直してもらったところできっと意味はない。ただ、俺がやつと向き合うのが遅くなるというだけの話。
否、俺は今きっと冷静ではないだろう。
なら、むしろ時間を置いた方がいいのだろうか。
悩み始めた俺など待たず、やや乱暴に扉が開け放たれる。
「どうしてここにいるんだ、リティ」
顔を見せると同時、怒ったような声音で開口一番、そう言い放った男は勿論ロディスだ。
無礼で居丈高な男。
「俺が俺の職場にいて何がおかしいって言うんだ。無作法が過ぎるんじゃないのか、ロディス」
ノックをしたのなら返事ぐらい待て。
こちらも負けじと不機嫌なまま、そんな風に言い返すと、ロディスはますます眉根を寄せた。
「無作法? お前が今ここにいる事実より、重要なものなんてない。今日は休んでおくよう言ったはずだ」
俺は呆れたように溜め息を吐いた。
全く頭が痛くなりそうだ。
確かに数時間前。
この男はそんなことを言い置いて、俺を放って部屋を出ていった。俺の、家から、出ていったのだ。
時間も時間だったので、おそらくそのまま出勤したのだろう。だが、そもそもの話。
「なんでお前の言うことに従わなければならない。お前に俺の出勤を左右するような権限はないぞ」
俺は第三部隊の隊長だ。そしてロディスは第二部隊の隊長。
所属こそ違うがいわば同格で、どちらが偉いというわけでもない。同時にお互いがお互いに指示を出すような権限など持ち合わせていなかった。
こと、仕事についての相談や打ち合わせなどはしなくもないけれど。
それでも、俺とロディスとでは、そんなやりとりでさえ必要最低限で。今のよう、わざわざ俺の執務室まで、ロディスが足を運ぶことなど滅多にない。
俺とロディスが、それぞれに部隊を任されるようになって数年。その中で、今まで実際に数えるほどしか起こっていないことだった。
ちなみに同じよう、俺だってロディスの執務室になんて、足を向けたりしないのだ。
出来るだけ顔さえ見たくない相手なのに、なぜ、わざわざ会いに行かねばならないのか。
それぐらい仲が悪いはずの俺の元へ、どうして今、この男は足を運んだ?
ロディスがいったい何を考えているのか。俺には全くわからなかった。
今朝から。否、多分、昨夜から。
「権限ならある。責任を取ると言っただろう」
そしてわけのわからないこの男は、不遜にもそんな風に言い放った。
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