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8・現状

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「そうなのか……ありがとう。俺は……ともかく、記憶になくて」

 短くサーラにお礼を告げて、俺は力なく言葉をこぼした。

「朝起きたら、隣にあいつが寝ていて、それで……」

 もうすでにこの状態だったのだ。
 腹に宿ったあいつの魔力。
 それに俺が気付かないはずがない。俺を一目見ただけでサーラが、隊員たちが皆、その事実に気付いたように。
 昨夜俺とロディスの間に何があったのか。それは誰の目にも、あまりに明らか過ぎる状態だった。
 多分、もし子供と成っていなくても。余程厳重に装うのでもなければ、誤魔化せるようなものではなかったことだろう。それぐらい、今の俺は。否、目が覚めたその瞬間ですでに、ロディスの魔力に染まり切っていた。
 体を交わせば、受け入れる側は特に、相手までもが一目でわかる。
 それは魔術士であれば当たり前の話だ。
 俺は今まで誰とも、そういう意味で魔力を交わしたことなどなかった。
 そして俺が未経験であることなんて、あまりにも明らかな事実だったのだ。
 おそらくそう言ったことも含め、先程の隊員たちの態度だったのだろうし、サーラも声をかけてきたのだろう。
 相手までもわかり、その上その結果さえも目にしたのならば余計に。

「すまない……まだ、混乱していて」

 隊長室にある応接スペース。力なく溜め息を吐く俺に、並んで腰かけたサーラが気遣わしげに寄り添ってくれている。

「心中お察しいたします。記憶がおありにならないのでしたら確かに、それは混乱なさることでしょう。ですが」

 俺に寄り添ってくれていながら、しかし彼女の目は鋭く、ともすれば逃げ出したい、そんな俺の心情を咎めるかのようだった。

「わかっていらっしゃるでしょう? リティ隊長。子供は望まなければ成せません。貴方は間違いなく、昨夜。ロディス隊長を受け入れ、そして子供を望んだのです」

 その事実は揺るがない。
 それは今朝から俺自身が何度も。自問しては否定したくてたまらなくなっている俺の現状そのものなのだった。
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