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7・昨夜
しおりを挟む改めて整理してみよう。
昨日の話だ。
昨日は数人の隊員たちと、飲み屋で酒を酌み交わしていた。
隊員の中で婚姻の決まった者たちがいて、その祝いの席だったのである。
一人は我が第三部隊の者で、その相手があのにっくきロディス率いる第二部隊の隊員だった。
魔術士同士の婚姻。
特に珍しいことではない。だが、めでたいことであることに変わりはなく、特に我が隊の隊員は非常に頼りない男で、意中の相手となかなか関係が進まないと、相談を受けていたこともあり、それがようやく婚姻にまで至れたというのだから、俺も我がことのように喜ばしい気持ちでいっぱいだった。
それでつい、酒が進んでしまったことまでは覚えている。
相手が第二部隊の隊員ということで、同じ席にロディスがいたのも。
だが、ロディスと俺は、全く近づいたりなど、していなかったはずなのだ。
なにせ近くにいると喧嘩になる。あのような場で諍いを起こしたいわけもなく、席も出来るだけ離れたところに座っていたと思ったのだけれど。
「そう、ですね……私も酒を過ごしていましたから。お二人をずっと見ていたわけではありませんけど。気付いた時にはお二人とも、元の席とは違う場所で、隣同士にお座りになって、特に機嫌を悪くしたりだとかする様子もなく、コップを交わしておられました。珍しいこともあるものだな、とは思っておりましたけれど……」
それでもまさか、記憶を失くしているだなんて。
俺は別に酒に弱いわけではない。
と、言うよりも、アルコールをどうにかできない魔術士など、ほとんどいないことだろう。
ただ、例外があって、酔いたいと思えば酔えるのだ。
昨夜は確かに気分良く酒を重ねて。このまま気持ちよく酔っぱらってしまってもいいなと、アルコールの分解を意図的にしていなかったのは確かだった。
逆に言うと、そんな風に意識しなければ酔うことも出来ない。
だから、俺が自分を見失うほど、泥酔していたというのなら、それは確かにあり得る話なのだとは思う。
だが、ならばロディスは。俺は酔っぱらっていたのだろう。だけど。
「あ、ああ、そうだな、俺も昨夜は酔うつもりがあったから……だが、ロディスは、」
俺は酔うつもりがあったのだから、泥酔状態となってしまって、普段と違う行動を取っていたとしてもおかしくはない。だが、ならばロディスの方はいったいどうだったのか。
まさかあの男、正気のまま俺の相手を?
「いえ、ロディス隊長もひどく酔っぱらっていらっしゃるように見えました。時折耳に届いたお言葉を聞く限り、随分と呂律も怪しかったですし、何よりあの鉄面皮が、普段は決して見れないような蕩けるような笑顔をたたえ、隊長を構っていらっしゃって。隊長は隊長で、甘えるように寄りかかっていらっしゃいました」
ロディスは基本的に険しい顔ばかりしている。
そんな所もかっこいいだとかいう声を時折耳にしたりなどしたが、簡単に言うと無表情もいいところだった。
俺と一緒にいる時には、むしろ機嫌の悪そうなより険しい顔ばかり見せてくるけれども。
それだって、あいつの表情筋は仕事をしなさすぎると思うほどだ。
そんなあいつが、蕩けるような笑顔、だと?
笑顔そのものさえ、ほとんど見たことがないというのに?
いや、それよりも、だ。
「は? お、俺が……?」
甘えるように、もたれかかって……?
全く考えられないことだった。
よりにも寄ってあの男に、まさか俺が甘えるような態度を見せていただなんて。
「ええ。間違いございません。珍しいこともあるものだなぁと思ったのをよく覚えています。私などは実はお二人、仲良くお酒を酌み交わすようなことがこれまでもあったりするのかもしれないなんて思ったほどでした」
それぐらい、俺とロディスは大変に自然に仲睦まじい様子であったようだ。
普段の険悪っぷりが嘘だとまでは思わないけれど。
それでも、違う態度で過ごすようなことが、あったりもするのではないか、そう思うほど、親密そうに見えたのだとか。
信じられなかった。
全く持って身に覚えもなく。
だが。
腹を見下ろす。
そこにはあの男と。俺の身にいったい何が起こったのかということが、あまりにも明白な証拠があった。
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