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5・新学期と学園祭
5-18・戸惑ったままの、③
しおりを挟む勿論、そのまま正直に話すつもりなんて元よりない。
「えーっと、その……実は長期休暇の少し前から、国にいる懇意にしている者と、少しすれ違ってしまっていて……」
その人とのことで、少し悩んでいるのだと告げる。
嘘ではなかった。
ただ、それが自分にとってどういった相手なのかだとか、そういうことを口にしなかっただけの話。
ティールの言葉を聞いたユーファは、
「それは……なんと言えばいいのか……」
容易に何かを口にもできず、かと言って、自分から訊ねておきながら、何も返さないわけにもいかないと思うのだろう、明確に戸惑っているようだった。
「その、休暇中は国に戻っていたのだろう? その人とは会わなかったの?」
同じ国にいたのなら会えたのではないか。
そう言いたげな口調に、ティールはふると小さく首を横に振る。
「ちょっと、気まずくて……自分の中の気持ちも整理したかったから、会わなかったんです」
敢えて会わずにおいた。
そんなニュアンスが伝わったのだろう、やはりユーファはなんと返せばいいのかを少し悩んでいるように見えた。
ただ、ユーファもそれ以上詳細を尋ねてくるような無遠慮なことはして来ず、それでもわからないなりに、ティールを力づけようと思っているようで。
「えぇっと、それは……長期休暇、だけじゃ時間が足りなかった、ってことかな……?」
長期休暇は、長期休暇というだけあって勿論決して短くなどない。むしろ二ヶ月弱は言葉通り長いと言っていいだろう。それでも足りなかったのだろうかと控えめながら確かめてくる言葉に、ティールは曖昧に頷いた。
「そう……です、ね……気分転換は、出来たんですけど……」
でも、気持ちの整理は付けられなかった。
控えめながら小さく自嘲して瞳を揺らすティールは、いったいユーファにはどう映ったのだろうか。
ユーファは何とも痛ましいものを見るかのようにティールを見て、だけど結局上手い言葉が見つからなかったようで。
「ええと、よくはわからないけれど……なら、無理に気持ちを整理する必要もないんじゃないかな……そういう無理は、どこかで歪んだりすると思うし……」
などと、慰めのようなことを口にした。
気遣ってくれる、その気持ちが嬉しかった。少しだけ心が温かくなる。だから。
ティールはそんなユーファの気遣いに自然、微笑んで。
「ありがとう……ございます」
ただ、そんな風に礼だけを告げていたのだった。
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