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5・新学期と学園祭

5-11・新学期の前に⑪

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「それで、どうなったのか聞いても?」

 ピオラたちと別れ、アリアだけを連れ、借り受けた応接室の一つへと彼女を促し、ナウラティスから出向いて来てくれている侍従の一人が、お茶の用意を整えたのを待って、ティアリィは早速とばかり口を開いた。
 向かい側に座ったアリアは、神妙な表情で頷く。

「はい。こちらの把握していた方々とは概ね連絡が取れました。状況次第ではございますが、皆様ご賛同頂けるとのことです」

 つまりは首尾よく進んでいるとの言葉に、ティアリィはほっと安堵の息を吐いた。

「そうか。なら、進めても良さそう、かな……?」

 最低限の条件はなんとかなったということだと判断し、そのまま少しばかり考える。
 ティアリィの考えていることは、そう大層なことというわけではなかった。
 むしろ話を聞く限り、たった一つの変化で、状況は大きく変わるのではないかとさえ思っている。
 それは例えばナウラティスにおいてなら、そこまで重大な問題となるようなことではなかった。
 だが、おそらくキゾワリでは違う。
 そしてきっと、救われるものも多いのではないだろうかと考えられるのだ。だから。

「あとは結局、現状の把握か……」

 キゾワリの実際の内情は今、伝聞でしか把握できていない。
 誰か・・がキゾワリへと直接足を運ぶ必要があった。
 それも、出来るだけ信頼のおける、危なげのない者にしか頼めない。
 なにぶん、どこからも全くいい話を聞かない国なのである。
 危険だろうことだけがあまりにも明らかで。ティアリィは誰かを、そのような危険に晒したくはなくて。
 ならいっそ。

「……俺が直接行くのが早い、か……?」

 もう一つ必要な条件もある。そちらの確認もしなければ。
 ポソと呟いた言葉に、アリアがぎょっとして目を見開いた。

「え?」

 よく聞こえなかった、というよりは、聞こえた上で驚いているように見える彼女に、今度はティアリィの方が不思議に思って首を傾げる。

「? どうかしたか?」
「い、いいえ……どうにも考えづらいことに聞こえたものですから……」

 考えづらいこと、とは何なのだろうか。よくわからない。

「……俺が、直接あの国へ行くのが、一番早いかと、そう言っただけなんだが……」

 いったい何に聞こえたというのだろう。
 よくわからないままのティアリィに、アリアは目に見えて狼狽えていた。

「え、いや、あの、えぇっと、その……や、やはり、そうおっしゃっていらしたの、ですね……」

 彼女は別に聞き間違ったというわけではないらしい。
 ティアリィは自らの発言のいったい何に驚いたのか、アリアのこの様子を見ても結局理解できないままなのだった。
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