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5・新学期と学園祭
5-8・新学期の前に⑧
しおりを挟むナウラティスは他国に干渉しない。
だがそれはあくまでも基本的には、だ。
国としては何も出来ないだろう。
何かしたらそれは、そこにどのような理由があっても、侵略のようなものになってしまう。
だが同時に、ティアリィ個人として、目の前で起こっている出来事を、無視できないのも本当だった。
特にリアラクタ嬢のことは気にかかって仕方がない。
せめて彼女だけでも何とかできないか。そう考えてしまう。
それらを踏まえて、情報が欲しくて。
それで今、こうしてキゾワリについてをアリアに聞いているのだけれど。
わかったのは、キゾワリの、どうしようもない、目を覆いたくなるような現状だけだった。
それでいったい自分に何が出来るのか。
ティアリィは考えた。
否、出来ることなんていくらでもある。
だけど、何をいったいどれぐらい、どうすればいいだろう。
ひとまずは。
考えながら口を開く。
「その……アリア嬢。国を出た者が多いというが、その者たちは、国に未練を持ったりはしていないのだろうか」
どのような国であれ、生まれ育った祖国なのだ。何も思わないはずがない。
特にキゾワリは宗教国家で、信心深さの差こそあれ、国民は皆、キゾワリ聖教を信仰していたはず。
予想通りアリアは云い淀んだ。
「それは……もちろん、あると思います。特にそれなりの年齢の方々は、今のようになる前のキゾワリをご存じですから、思う心はおありだと」
惜しんだり懐かしんだりもしていることだろう。
自分の無力感も、きっと噛みしめている。
ティアリィは小さく頷いた。
「ならそういう人たちは、もし、国がいい方向に変わるとしたら、戻りたいと思っているのだろうか」
今度はアリアが考える番だった。
「……人によるとは思います。ですが、戻りたいと思っている者はきっと少なくないでしょう」
先祖代々その国で生きてきた。愛着がないわけがない。
「そうか……」
ティアリィは考えた。
今までの話を聞くにつれ、キゾワリが今のようになった、一番大きな要因はたった一つしか思い浮かばない。
もし、それをどうにか出来れば。
そんな風に考えてしまう。
だけどそれは。
どうしても迷った。
リアラクタ嬢を救いたかった。
あるいはあの国の民を。苦しんでいる、人々を。
それはある意味で当たり前の感情だ。
差し伸べられる手を、自分は持っている。
ティアリィが出来ることはいくらでもあった。どんなことだってきっと出来る。
だが、ティアリィの両肩には国の名がかかっている。
それはどうにもできない事実。
そしてナウラティスは、他国には干渉しないのだ。
でも。
「アリア嬢。その……今、国を出ていて、それで戻りたい、そんな風に思っている者たちと、連絡を取ることなどは出来るのだろうか……あるいは彼の国の中で、現状を憂いている者たちなどとは」
もし、それが出来るなら。
ティアリィが出来ることなんて、きっとそんなに多くはない。
ティアリィの本来の立場を思えばこそ、個人で動くには制約が多すぎた。
だけど。
アリアは一瞬目を見開いて驚いて。次いで泣きそうに顔を歪めた。
「わ、私一人では、難しいです……ですが、」
当てがないわけではない、そう言った。
ティアリィは頷いた。
「なら、お願いしたいことがある」
ティアリィが彼の国に対してできる、可能な限りのことを。その為に頼みたいこと。
アリア嬢もまた頷いた。
続けてティアリィの考えを聞いて、その内にあふれ出た涙を止められなくなりながら、何度も何度も頷いて……――やがてその内に、ただ嗚咽をこぼすだけとなった。
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