結婚10年目で今更旦那に惚れたので国出したら何故か他国の王太子に求婚された件。~星の夢2~

愛早さくら

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5・新学期と学園祭

5-8・新学期の前に⑧

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 ナウラティスは他国に干渉しない。
 だがそれはあくまでも基本的には、だ。
 国としては何も出来ないだろう。
 何かしたらそれは、そこにどのような理由があっても、侵略のようなものになってしまう。
 だが同時に、ティアリィ個人として、目の前で起こっている出来事を、無視できないのも本当だった。
 特にリアラクタ嬢のことは気にかかって仕方がない。
 せめて彼女だけでも何とかできないか。そう考えてしまう。
 それらを踏まえて、情報が欲しくて。
 それで今、こうしてキゾワリについてをアリアに聞いているのだけれど。
 わかったのは、キゾワリの、どうしようもない、目を覆いたくなるような現状だけだった。
 それでいったい自分に何が出来るのか。
 ティアリィは考えた。
 否、出来ることなんていくらでもある。
 だけど、何をいったいどれぐらい、どうすればいいだろう。
 ひとまずは。
 考えながら口を開く。

「その……アリア嬢。国を出た者が多いというが、その者たちは、国に未練を持ったりはしていないのだろうか」

 どのような国であれ、生まれ育った祖国なのだ。何も思わないはずがない。
 特にキゾワリは宗教国家で、信心深さの差こそあれ、国民は皆、キゾワリ聖教を信仰していたはず。
 予想通りアリアは云い淀んだ。

「それは……もちろん、あると思います。特にそれなりの年齢の方々は、今のようになる前のキゾワリをご存じですから、思う心はおありだと」

 惜しんだり懐かしんだりもしていることだろう。
 自分の無力感も、きっと噛みしめている。
 ティアリィは小さく頷いた。

「ならそういう人たちは、もし、国がいい方向に変わるとしたら、戻りたいと思っているのだろうか」

 今度はアリアが考える番だった。

「……人によるとは思います。ですが、戻りたいと思っている者はきっと少なくないでしょう」

 先祖代々その国で生きてきた。愛着がないわけがない。

「そうか……」

 ティアリィは考えた。
 今までの話を聞くにつれ、キゾワリが今のようになった、一番大きな要因はたった一つしか思い浮かばない。
 もし、それをどうにか出来れば。
 そんな風に考えてしまう。
 だけどそれは。
 どうしても迷った。
 リアラクタ嬢を救いたかった。
 あるいはあの国の民を。苦しんでいる、人々を。
 それはある意味で当たり前の感情だ。
 差し伸べられる手を、自分は持っている。
 ティアリィが出来ることはいくらでもあった。どんなことだってきっと出来る。
 だが、ティアリィの両肩には国の名がかかっている。
 それはどうにもできない事実。
 そしてナウラティスは、他国には干渉しないのだ。
 でも。

「アリア嬢。その……今、国を出ていて、それで戻りたい、そんな風に思っている者たちと、連絡を取ることなどは出来るのだろうか……あるいは彼の国の中で、現状を憂いている者たちなどとは」

 もし、それが出来るなら。
 ティアリィが出来ることなんて、きっとそんなに多くはない。
 ティアリィの本来の立場を思えばこそ、個人で動くには制約が多すぎた。
 だけど。
 アリアは一瞬目を見開いて驚いて。次いで泣きそうに顔を歪めた。

「わ、私一人では、難しいです……ですが、」

 当てがないわけではない、そう言った。
 ティアリィは頷いた。

「なら、お願いしたいことがある」

 ティアリィが彼の国に対してできる、可能な限りのことを。その為に頼みたいこと。
 アリア嬢もまた頷いた。
 続けてティアリィの考えを聞いて、その内にあふれ出た涙を止められなくなりながら、何度も何度も頷いて……――やがてその内に、ただ嗚咽をこぼすだけとなった。
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