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5・新学期と学園祭
5-5・新学期の前に⑤
しおりを挟むリアラクタ嬢はそんな王宮で育ち、そんな国から来た。
ティアリィは考えながら口を開く。
「それを止められるようなものは誰かいないのか」
どう考えても異常な状況。それがなぜ放置されているのか。
アリアは首を横に振った。
「あの国では、聖王様は絶対です。神の現身ですから。そんな聖王様が望まれて、聖王様ご自身が情けをお与えになった後、与えられた情けを核として子を成し育てる為に必要な行為なのだと言っていました」
子を育てる為には魔力がいる。
アリア曰く、聖王自身はそれほど魔力が多い人間ではないようだったのだそうだ。
だから、尊い聖王の血を引く子供の魔力を、少しでも多くするために。
魔力を多く持つ者が王宮には集められていて、そして。
「だが、それは、そんなものはっ……!」
不特定多数で行うようなことではない。
子を成すということは通常、父と母、両親でのみ行われることなのだ。
なのに、魔力を注ぐために人を集め、無理やりに魔力を注いでいるだなんて。
それでは、聖王から情けを賜ることとなってしまった人間の尊厳は何処までも踏みにじられることとなるだろう。
「そんな状況で子供が望めるはずがないだろうっ!」
語られた無茶苦茶な理屈に、思わず声を荒げたティアリィの言葉を聞いて、しかしアリアは目を伏せ、首を横に振った。
「いいえ、だからこそ、です。辛い状況から逃れる為に、子を、望んでしまっているのではないかと思えました。いずれも状況は変わらないのではないかとも私には思えたのですが、子が出来ねば出来ぬで、ひどく苛まれることに違いはないのだとか。私も、それ以上詳しくは……」
もしかしたらその辺りはリアラクタ嬢やあの司祭の方が知っていることなのかもしれない。
アリアはあくまでも、何度か足を踏み入れたことがある、というだけなのだという。
あとは親しくしていたという王子から聞いた話や学園で貴族たちがしていた噂程度しか知らないのだと。
推測も混じっているのだという言葉にティアリィは頭を抱えた。
「あ、ああ、すまない……そう、だったな……」
ここで激昂したって仕方がない。努めて心を落ち着けた。
「聖王が絶対だと言ったか。だがそんな状況、通常の感覚を持っている者には耐えられないだろう」
聞いているだけで胸糞が悪くなる。
近くでそんなことが起こっていて、何も感じないものの方がきっと少ない。
アリアはその通りだというように頷いた。
「ええ、ですから、あそこからは、まともな者ほどいなくなるのです」
残っているのはおかしな感性を持つ者ばかり。あとは逃れることができない者だけなのだと、そして自分は逃れることが出来たのだと、アリアは静かにそう告げた。
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