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5・新学期と学園祭
5-1・新学期の前に①
しおりを挟む夏季休暇が終わる直前。ティアリィはファルエスタへと戻ってきていた。
結局ミスティとは会っていない。まだ、会う気にはなれなかった。
これについては少しだけ、アーディや他の子供達とも相談してみたいと思う。
それはそれとして、学生寮へと向かう前に、ひとまずはと王宮へと足を延ばした。
長い夏季休暇のほとんどをピオラが帰国せずお世話になっていて、そのお礼も兼ねている。
国王夫妻は相変わらず快く、ティアリィとの時間を取ってくれた。
「なんでもこの休暇中、国で視察を行っていらしたのだとか」
ある程度のことを把握しているらしい国王に小さく頷く。
特に隠すようなことでもない
「ええ。実は初めての試みだったのですが、存外有意義に過ごせました」
「ああ、そうなんですね……なら、うちでも取り入れてみようかな……」
「ルディ」
興味深そうなルディファラ王の隣で、王配殿が咎めるように名前を呼んでいる。
つまりは反対ということなのだろう。
ルディファラ王は、隣の伴侶には応えず、だけどちらとそちらを向いて、ただ小さく肩を竦めた。
「とは言え、どうやら実現は難しそうですが。……でも、ユーファにはさせてみてもいいかもしれませんね」
ルディファラ王もまさかそんなことが叶うとも初めから思っていなかったのだろう。だが、興味深いのは本当のようで、息子の名前をにっこりと口に出していた。
「どう……でしょうか。ナウラティスは国土が広いので結局、回り切れなかったのですが、こちらなら可能かもしれませんね。たまには国の隅々まで見てみるのも実際、悪くはないと思いますよ」
少なくとも国を治めているのなら、自分の治めている国の実情は目にしたってかまわないだろう。否、むしろきっとそちらの方がいい。
「転移施設はご使用にならなかったのですか?」
「使っても回り切れません。全ての領地に転移施設を設置できているわけでもございませんから」
訊ねられ首を横に振る。
本当の話だ。
ナウラティスはあまりに広すぎる。
二ヶ月ではとても足りなかった。
「ファルエスタは山間部も多いですからね……これは今後少し検討してみます」
そんな風な短いやり取りで、施設についての話題は終わる。
あくまでも挨拶の一環だったからだ。
他に話すこともあった。例えば。
「そちらはどうでしたか? ピオラをお預けしてしまいましたが……」
ここに滞在したピオラの様子など。
「特に問題はありませんよ。ユーファも存外仲良くやれていたようです。初めからお話していた通り、少し勉強も見させて頂きましたが、非常に優秀なお嬢さんですね。あのご様子なら、何処に行っても上手くやっていけることでしょう。勿論、我が国でも」
ルディファラ王がとても満足そうに微笑む。
どうやら思っていたより良い印象を与えられたようだと、仲良くやれていたようだというのも含め、ティアリィはなんとなくほっとした。
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