187 / 206
4・初めての国内視察
4-69・誰かの話③(???視点)
しおりを挟む学園に通うような年になって、実際、学園に通っている間は、王宮の外に出ることが出来た。
初めて知った外の世界は、なんだか恐ろしい場所だった。
否、王宮の中と比べると、決してそんなことはないはずだったのだけれど。
僕は第一王子と言えど、まったく価値も意味もない存在だ。
権限なんかもあるわけがない。
なのに学園の者は皆、そうは見ないようだった。
それどころか、
「流石は次期聖王であらせられる」
なんて、どうということもない、出来て当たり前のことが出来ただけでそんな風に褒められたりした。
次期聖王? 誰が?
僕はただの第一王子。当然そんな話になどなっているはずがなかった。
だけど王宮の外の皆が僕をそう見て、僕に媚び、あるいは僕に取り入ろうとした。
怖かった、恐ろしかった、自分という物を通り越して、皆その向こうの聖王を見ている。
きっと、聖王という地位を見ている。
僕が次にその立場になるのだと、勝手に期待して、祭り上げて、そして……。
僕は彼らの期待になど全く何も答えられなかった。
だが、結局卒業するまで、僕が、彼らの期待から逃れられるようなこともなかった。
そうして学園生活をわけのわからない状況のまま過ごし、卒業すると成人となる。
だけど僕の立場は変わらない。
学園に通わなくなると、僕は王宮から出られなくなった。
僕に価値など全く見出してはいないようであるにもかかわらず、聖王は同時に僕を外へと出す気もないようだった。
まるで飼い殺しだ。
聖王の意図などわからない。
だけど僕は何処にも行けない。
僕は王宮内しか知らず、一度学園に通ったからこそ、外で生きて行けるともまるで思うことが出来なかった。
かと言って何か役目を与えられるわけでもなく、誰かに大切に尊重されるようなこともなく、むしろ呼ばれることさえ稀なまま、息をひそめるようにして王宮の片隅で暮らし続ける。
自分を見失いそうだった。
いったい僕は何なのか。どうして、生きているのだろう。どうして、僕はここにいる。
こんな、人の悲鳴と喘鳴、怨嗟の声とはしたない喘ぎ声ばかり渦巻くこんな場所で、どうして、こんな。
王宮の中ではいつの間にか、わけのわからない男たちが、我が物顔で闊歩するようになっていた。
そしてそんな男たちは、見目の良い側妃だとか王子、あるいは王女だとかに所構わず襲いかかっているのである。
一応、人は決まっているらしく、僕が手を伸ばされるようなことはなかった。
だけどそれがいったい何だというのだろう。
こんな場所に囚われたまま、いつまで僕は生きていなければならないのか。
いっそこんな場所失くなってしまえば……いっそ、あの聖王なんて。
何度も思って、行けないと自分を戒めた。
自分に出来ることなんて何もなかった。
その、はずだった。
なのに。
「ああ、こんな所にいたのか。探していたんだ。……――ねぇ、見つけたよ!」
声が聞こえた。
子供の声だ。
最後の言葉は、後ろにいたらしい誰かに向けてのそれ。
「あー? そいつかよ。無理じゃね?」
嫌そうな声がもう一つ増える。
やはり子供の声だった。
「えー、でも、彼が適任だと思うんだよね。何より彼、真っ白だよ。この場所でこれは貴重じゃない?」
「まぁ、確かにそうではあるな、うん」
子供たちの声は明るくて、こんな場所に相応しくない。
ああ。
光が射しこむ。
部屋にうずくまったままの僕の所へも。
「ねぇ、そこのあなた、僕達と一緒に……――」
そうして僕に向かって差し出された小さな手は。まるで神がもたらした救いのようにも見えたのだった。
16
お気に入りに追加
811
あなたにおすすめの小説
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
番だと言われて囲われました。
桜
BL
戦時中のある日、特攻隊として選ばれた私は友人と別れて仲間と共に敵陣へ飛び込んだ。
死を覚悟したその時、光に包み込まれ機体ごと何かに引き寄せられて、異世界に。
そこは魔力持ちも世界であり、私を番いと呼ぶ物に囲われた。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る
112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。
★本編で出てこない世界観
男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。
婚約破棄されたから能力隠すのやめまーすw
ミクリ21
BL
婚約破棄されたエドワードは、実は秘密をもっていた。それを知らない転生ヒロインは見事に王太子をゲットした。しかし、のちにこれが王太子とヒロインのざまぁに繋がる。
軽く説明
★シンシア…乙女ゲームに転生したヒロイン。自分が主人公だと思っている。
★エドワード…転生者だけど乙女ゲームの世界だとは知らない。本当の主人公です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる