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4・初めての国内視察

4-69・誰かの話③(???視点)

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 学園に通うような年になって、実際、学園に通っている間は、王宮の外に出ることが出来た。
 初めて知った外の世界は、なんだか恐ろしい場所だった。
 否、王宮の中と比べると、決してそんなことはないはずだったのだけれど。
 僕は第一王子と言えど、まったく価値も意味もない存在だ。
 権限なんかもあるわけがない。
 なのに学園の者は皆、そうは見ないようだった。
 それどころか、

「流石は次期聖王であらせられる」

 なんて、どうということもない、出来て当たり前のことが出来ただけでそんな風に褒められたりした。
 次期聖王? 誰が?
 僕はただの第一王子。当然そんな話になどなっているはずがなかった。
 だけど王宮の外の皆が僕をそう見て、僕に媚び、あるいは僕に取り入ろうとした。
 怖かった、恐ろしかった、自分という物を通り越して、皆その向こうの聖王を見ている。
 きっと、聖王この国の国主という地位を見ている。
 僕が次にその立場になるのだと、勝手に期待して、祭り上げて、そして……。
 僕は彼らの期待になど全く何も答えられなかった。
 だが、結局卒業するまで、僕が、彼らの期待から逃れられるようなこともなかった。
 そうして学園生活をわけのわからない状況のまま過ごし、卒業すると成人となる。
 だけど僕の立場は変わらない。
 学園に通わなくなると、僕は王宮から出られなくなった。
 僕に価値など全く見出してはいないようであるにもかかわらず、聖王は同時に僕を外へと出す気もないようだった。
 まるで飼い殺しだ。
 聖王の意図などわからない。
 だけど僕は何処にも行けない。
 僕は王宮内この世界しか知らず、一度学園に通ったからこそ、外で生きて行けるともまるで思うことが出来なかった。
 かと言って何か役目を与えられるわけでもなく、誰かに大切に尊重されるようなこともなく、むしろ呼ばれることさえ稀なまま、息をひそめるようにして王宮の片隅で暮らし続ける。
 自分を見失いそうだった。
 いったい僕は何なのか。どうして、生きているのだろう。どうして、僕はここにいる。
 こんな、人の悲鳴と喘鳴、怨嗟の声とはしたない喘ぎ声ばかり渦巻くこんな場所で、どうして、こんな。
 王宮の中ではいつの間にか、わけのわからない男たちが、我が物顔で闊歩するようになっていた。
 そしてそんな男たちは、見目の良い側妃だとか王子、あるいは王女だとかに所構わず襲いかかっているのである。
 一応、人は決まっているらしく、僕が手を伸ばされるようなことはなかった。
 だけどそれがいったい何だというのだろう。
 こんな場所に囚われたまま、いつまで僕は生きていなければならないのか。
 いっそこんな場所失くなってしまえば……いっそ、あの聖王なんて。
 何度も思って、行けないと自分を戒めた。
 自分に出来ることなんて何もなかった。
 その、はずだった。
 なのに。

「ああ、こんな所にいたのか。探していたんだ。……――ねぇ、見つけたよ!」

 声が聞こえた。
 子供の声だ。
 最後の言葉は、後ろにいたらしい誰かに向けてのそれ。

「あー? そいつかよ。無理じゃね?」

 嫌そうな声がもう一つ増える。
 やはり子供の声だった。

「えー、でも、彼が適任だと思うんだよね。何より彼、真っ白・・・だよ。この場所でこれは貴重じゃない?」
「まぁ、確かにそうではあるな、うん」

 子供たちの声は明るくて、こんな場所に相応しくない。
 ああ。
 光が射しこむ。
 部屋にうずくまったままのこんなに暗い場所にいる僕の所へも。

「ねぇ、そこのあなた、僕達と一緒に……――」

 そうして僕に向かって差し出された小さな手は。まるで神がもたらした救いのようにも見えたのだった。
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