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4・初めての国内視察
4-62・暗躍の中身②(アーディ視点)
しおりを挟む夏季休暇中に目処を立てる。
とは言え、アーディにもグローディも予定があった。
それはミーナもなのだけれど、ミーナが最低限の勉強だけ終わらせればすぐにどこかへ姿を消してしまうのはいつものことで。
何より、アーディたちの目的を考えると、とりあえずと言えばいいのか、キゾワリの首都、それも出来れば王宮に向かう必要があった。
だが、転移魔法は基本的に一度行ったところにしか向かえない。
座標とでも言えばいいのか、位置情報を正確に認識する必要があり、それは一度実際に足を運んだことのある場所ならともかく、全く見知らぬところとなると難しかった。
せめて特定の個人の魔力を目印に転移など出来ればいいと思うのだけれど、今の所は出来そうもなくて。いずれは、とは考えているけれど。
ともあれ、少しだけ話し合う。
三人の中で、キゾワリに足を踏み入れたことがあるのはキゾワリ国内だけではあるけれど、母の旅程に付き添っていたミーナだけ。
それでも首都へは向かわなかったのだと聞いている。
「うーん、一応ね、知り合いの商会に連絡は取ってあるの。だから、首都へ向かう商団に同行は出来るわ」
それでも実際に向かう必要はあった。ただし、一度行ってしまえば戻るのは一瞬なのだけれど。
「ずっと、そこに同行させてもらうってわけにはいかないね」
先ほども言った通り予定がある。基本的に王宮にいなければならない。
「そうね。でも、この中で一番身軽なのは私だろうし、首都へは私一人で向かって、着いてからアー兄達を連れていくってのでどう? てゆっか、一回アーディ兄様を連れて行ってあげるから、グローディ兄様のことはアーディ兄様が連れて行ってね」
「あ、うん、それは別にいいけど」
ミーナはそもそも年齢もあってか、アーディほど転移魔術を使いこなせているわけではない。
キゾワリともなると自分以外だと1人一緒に連れていくぐらいが精いっぱいなのだろう。
その代わりのように、実際の移動が必要な部分を請け負ってくれるのだという。
「その間に、グローディ兄様に転移魔術を教えておいて。とは言え、グローディ兄様じゃキゾワリはきついかもしれないけど」
「どうかなぁ。グローディ兄様ご本人のみの転移なら何とかなるんじゃない? ま、グローディ兄様次第ではあるけどね」
ちらと視線を寄越されながらそんなことを告げられて、グローディはつい、びくと体を震わせてしまっていた。
「お、俺はなんでもいいぞ。お前らに従うから」
そもそもこの三人の中では、出来ることが一番少ないのがグローディである。作戦指揮、のようなものを請け負うのは間違いなくアーディ。
「うん、そうだね、ありがと。じゃ、ミーナが言う通り、ミーナがキゾワリ内を移動してくれてる間に僕がグローディ兄様に転移魔術を教えるってことで。……――どれぐらいかかりそう?」
訊ねたのはミーナへ。移動にかかる日数の話である。
「うーん、私も勉強があるから、一日ずっと移動ってわけにもいかないし……そこは商団に我が儘を聞いてもらおうと思ってるんだけど。そうだなぁ……今回は入国もそもそも知らせる予定がないし、ただの商団なんだし、大きい街道を行ってもらうとして……一度行ったことのある一番近いところからって考えたら……3日……か、4日ってとこかな……ただ、商団に先に先行してもらおうと思ってるから、そっちの移動に1週間は見てた方がいいかも」
アーディは頷いた。
「じゃあ、とりあえず1週間ぐらいを目処にって考えればいいかな……頑張ろうね、グローディ兄様」
にこと微笑む。
「お、おう……」
グローディの顔が若干ひきつったのは、この先に待ち構える一週間を不安に思ったが故だった。
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