結婚10年目で今更旦那に惚れたので国出したら何故か他国の王太子に求婚された件。~星の夢2~

愛早さくら

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4・初めての国内視察

4-61・暗躍の中身①(アーディ視点)

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 ここ最近グローディの様子がおかしい。
 少し前に母、ティアリィの代わりにとカナドゥサへの視察を請け負ってからだ。
 アーディは内心で首を傾げた。
 ナウラティス帝国我が国の属国となる幾つかの公国への視察は、数年に一度、必ず直接王族が赴いて行っている大切な仕事の一つだった。
 以前より予定されていたカナドゥサへの視察をグローディが請け負うことになったのは、ティアリィが今は国にいないのと、それもありミスティやアーディ自身を含め他の王族が少しばかり忙しくなっているから。
 ティアリィが少しばかりミスティと距離を置くため、国外に行くのはグローディも賛同していたことで、せめて自分が出来る範囲の手伝いをと、グローディの方から申し出て実行された視察だった。
 勿論、文官などを中心に、事前準備もしっかり行い、補助も充分についていたので特に何も問題はない。
 幸い視察先であるカナドゥサでも特に大きな問題は発見されず、視察そのものは順調に済んだのだと聞いている。
 ただその中で、曰くグローディは天使と出会ったのだとか。
 天使。
 いったい誰を見初めてきたのだろうか。
 知りたいような知りたくないような……それについては後日詳しく確認するとして、とにかく少しばかり様子の変わったグローディは、以前よりもずっと色々なことに能動的になったようだった。
 少し大人に近づいた、というような印象も受ける。
 以前はアーディとも一緒になって、悪戯ばかりしていたというのに。
 なんだかすっかり落ち着いてしまった。
 ただ、だからこそなのかなんなのか、ミーナとアーディの持ちかけた話に、快く乗ってきてくれたのは大変に助かる話ではあった。

「キゾワリか……いいぜ。母様のことが気にかかるのは俺もだしな。ああ、いや、俺じゃなくて……僕、私? 私も気にかかりますから? ぐらいかな……まぁいいか。ああ、そうだ、その代わりってわけでもないけど、お前に教えて欲しいこともあったんだ」

 普段のやや乱暴とも言える言葉遣いをどうやら直そうとしている気配を見せつつのグローディの言葉に、アーディは小さく首を傾げた。

「僕に?」

 グローディがアーディに何か教えを請おうとするなど珍しい。
 グローディはアーディよりも2つ年上だ。
 この年頃の2歳差は大きく、また、兄弟となった・・・のが一番遅かった・・・・・・が故の遠慮もあるのか、あるいはグローディ自身が随分しっかりした子供だった為か、これまでグローディがこれほどまでに真っ直ぐに、アーディへと教えを乞うようなことなどなかったのである。

「そう、お前に。ミーナでもいいけど……でも多分お前の方が上手いんだろうし」

 ミーナでもいい?
 本当にいったい何だというのだろう。

「ふぅん? 別にいいけど」

 断る理由なんてないはずだ。
 多分きっと魔法だか魔術だかについてだろうな、とぼんやり思いながら頷いたアーディに、グローディはひょいと肩を竦めて見せた。

「今後必要になると思ってさ。いい機会だし。こういうの、ほんとは母様が一番上手いんだろうけど、お前とミーナも出来るみたいだから」

 母が一番上手い。
 その時点でグローディが何を言っているのか、アーディにはわかった気がした。

「それってさ、もしかして……」
「そ。転移魔術。俺の魔力じゃ多分短距離が精々だろうけど、出来た方が便利だろ?」

 案の定、予想した通りの内容に、なるほどとアーディは頷いた。
 グローディに転移魔術を教える……出来なくもないだろうと考える。
 グローディの言う通り、きっと出来て短距離だ。
 グローディは決して魔力量は少なくない。
 ただ、ナウラティス帝国内この国で一番魔力が大きくてもおかしくない皇帝やら皇后やらである両親、その両親の実子であるアーディやミーナが桁外れなだけ。
 王族としての血が少しばかり薄いにしては、グローディは充分な魔力量を誇っていた。
 それは他国であれば王族でも何らおかしくはないぐらいの量。
 多分、グローディなら理解さえすれば転移魔術など容易に使えるはずだ。
 何よりこれからしようとしていることを考えても、グローディが転移魔術を使用できるようになってくれたならば助かることも間違いはなくて。

「わかった。なら、出来るだけ短期間で伝えられるようになんとかしてみるね」

 要はどう教えればグローディが一番理解しやすいのかを考えてみるというだけの話。
 快く請け負うアーディにグローディが笑った。

「頼むよ。お前らの計画にも助力は惜しまないからさ」

 快活な表情。
 こんな所は変わらないままだな。
 アーディは心の中でだけ、小さく呟いた。
 そうして少しずつ動き出す。
 ティアリィには決して伝えられない、ミスティからも了承を得られなかった悪巧み。
 だけど必要なことなのだとアーディは考えている。
 それはこの夏季休暇の間に、必ずある程度は進めておかなければならないことでもあったのだった。




+++++

※グローディが養子になったのは、一番小さいコルティを引き取った後です。
 グローディはその時点ですでに7歳でした。
 物心ついた後に養子になっているので、グローディが一番、ティアリィとミスティに対して遠慮があります。
 あと、ここで言ってるカナドゥサへの視察でグローディはレシアを見初めてます。
 運命の出会い()ですね。
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