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4・初めての国内視察
4-60・視察の意義③
しおりを挟むミスティとティアリィは違う。
そんな当たり前のことを、今更に強烈に思った。
違うのだから、わかり合うには話し合うより他にない。
ティアリィはそもそもあまり使用したくないのだが、可能かどうかという意味においては読心の魔術が使える。
つまり自分以外の誰かの思考や記憶を、やろうと思えば追えてしまえるのである。
その魔術自体は、ティアリィにとって難しいものではなく、魔力操作の一環で可能なほど。だが、同時にそうやって魔術で思考や記憶を読み取ったとしても、それでは本当に知りたいことはわからないままなのではないか、そうとしか考えられなかった。
知りたいのなら知ることは可能なのだ、でもミスティに対してそんなものは使いたくないし、そうやって無理やり、一方的に知るのではなくて、ミスティ自身から、明け渡して欲しかった。
ミスティの方から見て欲しいと望まれるのでもなければ、ティアリィとしてはわかり合うのは、出来れば会話がいい。
魔法や魔術は便利で、出来ないことなんてほとんどなくて、思いつくようなことは大抵できてしまって、でもそんなこと、人と人がわかり合うには結局大して役になど立たないものなのだろう。
だから話し合う。ゆっくりと、時間をかけてわかり合っていく。
思考を巡らせるティアリィの様子に、母が小さく微笑んだ。
「先程より少し、すっきりした顔をしているわ。泣いたのがよかったのかしらね。ふふ。こんなに長くあなたの話を聞くのは、思えば初めてだったけれど……そういうのがきっと本当は、もっと必要なのよね……」
なのにその顔がなんだか泣きだしそうに切ないのは、母が、ティアリィに対して思うことがたくさんあるからなのだろう。
今日はティアリィが自分の心情を吐露するばかりだった。
それに対して母はいろいろと返してくれたし、勿論その前に母の心情も聞いている。
そんな風、お互いの心を伝え合うのはきっと必要なことなのだろう。
「うん、俺もそう思うよ……だから、ミスティとも」
ちゃんと、話したい。
母と目を合わせて言い切ったティアリィに、母は今度こそ憂いのない顔で微笑んで。
「ええ、そう、そうね。貴方ならきっと出来るわ」
眩しそうに、くすぐったくなるほどの真っ直ぐな信頼を、間違いなく寄せてくれたのだった。
そうしてジルサ公爵領での視察は終わり、翌日には屋敷を後にした。
残り1週間。
間近に迫った終わりを意識しながら、ティアリィは結局、折に触れミスティを思わずにはいられず。すぐにも逃げ出したくなる心を抱えて、旅を終えたのである。
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