上 下
178 / 206
4・初めての国内視察

4-60・視察の意義③

しおりを挟む

 ミスティとティアリィは違う。
 そんな当たり前のことを、今更に強烈に思った。
 違うのだから、わかり合うには話し合うより他にない。
 ティアリィはそもそもあまり使用したくないのだが、可能かどうかという意味においては読心の魔術が使える。
 つまり自分以外の誰かの思考や記憶を、やろうと思えば追えてしまえるのである。
 その魔術自体は、ティアリィにとって難しいものではなく、魔力操作の一環で可能なほど。だが、同時にそうやって魔術で思考や記憶を読み取ったとしても、それでは本当に知りたいことはわからないままなのではないか、そうとしか考えられなかった。
 知りたいのなら知ることは可能なのだ、でもミスティに対してそんなものは使いたくないし、そうやって無理やり、一方的に知るのではなくて、ミスティ自身から、明け渡して欲しかった。
 ミスティの方から見て欲しいと望まれるのでもなければ、ティアリィとしてはわかり合うのは、出来れば会話がいい。
 魔法や魔術は便利で、出来ないことなんてほとんどなくて、思いつくようなことは大抵できてしまって、でもそんなこと、人と人がわかり合うには結局大して役になど立たないものなのだろう。
 だから話し合う。ゆっくりと、時間をかけてわかり合っていく。
 思考を巡らせるティアリィの様子に、母が小さく微笑んだ。

「先程より少し、すっきりした顔をしているわ。泣いたのがよかったのかしらね。ふふ。こんなに長くあなたの話を聞くのは、思えば初めてだったけれど……そういうのがきっと本当は、もっと必要なのよね……」

 なのにその顔がなんだか泣きだしそうに切ないのは、母が、ティアリィに対して思うことがたくさんあるからなのだろう。
 今日はティアリィが自分の心情を吐露するばかりだった。
 それに対して母はいろいろと返してくれたし、勿論その前に母の心情も聞いている。
 そんな風、お互いの心を伝え合うのはきっと必要なことなのだろう。

「うん、俺もそう思うよ……だから、ミスティとも」

 ちゃんと、話したい。
 母と目を合わせて言い切ったティアリィに、母は今度こそ憂いのない顔で微笑んで。

「ええ、そう、そうね。貴方ならきっと出来るわ」

 眩しそうに、くすぐったくなるほどの真っ直ぐな信頼を、間違いなく寄せてくれたのだった。
 そうしてジルサ公爵領での視察は終わり、翌日には屋敷を後にした。
 残り1週間。
 間近に迫った終わりを意識しながら、ティアリィは結局、折に触れミスティを思わずにはいられず。すぐにも逃げ出したくなる心を抱えて、旅を終えたのである。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

番だと言われて囲われました。

BL
戦時中のある日、特攻隊として選ばれた私は友人と別れて仲間と共に敵陣へ飛び込んだ。 死を覚悟したその時、光に包み込まれ機体ごと何かに引き寄せられて、異世界に。 そこは魔力持ちも世界であり、私を番いと呼ぶ物に囲われた。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る

112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。 ★本編で出てこない世界観  男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。

侯爵令息は婚約者の王太子を弟に奪われました。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

婚約破棄されたから能力隠すのやめまーすw

ミクリ21
BL
婚約破棄されたエドワードは、実は秘密をもっていた。それを知らない転生ヒロインは見事に王太子をゲットした。しかし、のちにこれが王太子とヒロインのざまぁに繋がる。 軽く説明 ★シンシア…乙女ゲームに転生したヒロイン。自分が主人公だと思っている。 ★エドワード…転生者だけど乙女ゲームの世界だとは知らない。本当の主人公です。

処理中です...