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4・初めての国内視察

4-40・母と話す③

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 ティアリィからしてみれば特に違和感も何もないし、別に寂しい思いをしたとも思わないが、単純に考えて、一般的な親子関係とは言えないだろう自覚ぐらいは流石にある。
 自分とほとんど常に一緒だったルーファはどうなのだろう。
 そんなことを思ったのも、実の所、初めてだった。
 自分がなんとも思っていないので、ルーファもきっと一緒だろうとティアリィはずっとそう認識していた。
 なにせルーファはルーファで、ティアリィ以外には碌な執着を見せなかったのだから。
 ティアリィにはルーファを甘やかすだけ甘やかし、育て上げた自覚がある。
 母親よりよほど近しく過ごしてきた。
 だがティアリィはあくまでもルーファの兄でしかなく、母親では決してないのである。
 そもそも年だって2つしか離れていないのだけれども。
 だからこそ、いったい何を話せばいいのか、母は何を話したいのだろう、そんなことが気になった。
 何か用事があるのかもしれないし、ないのかもしれない。
 それはティアリィにはわからないことだ。
 それに母と何を話すとしても、抵抗などまるでない。ただ、なんだろう、そう不思議に思うだけ。
 母はティアリィの目の前でゆったりとお茶を楽しんでから、おもむろにティーカップをテーブルに置いた。
 母に倣い、お茶に口を付けていたティアリィはそれにも倣う。
 改めて座り直した母はふぅと小さく息を吐いて、そしてティアリィに向けてにこりと微笑んだ。
 ルーファとほとんど同じ顔。
 それはつまりティアリィとも、まるで鏡を見るかのよう、同じ顔をしているということだ。
 違うのなんて目の色だけ。
 あとは魔力量によって受ける印象ぐらいのものだろうか。
 そういえば子供たちは誰も、そこまでティアリィに似てはいないな、そうも思った。
 アーディとミーナを思い出すと、アルフェスとルーファの間に出来た子供の方がまだ似ている。
 アーディははっきりと父親似だし、ミーナはそれよりはティアリィに似ていたけれど、ミスティに似ている部分も多かった。
 だが、反して母とティアリィはそっくりだ。
 ルーファと、下の妹になるアリフィも同じ顔。
 多分父が。余程に母の顔を好いているのだろう。
 子供が親とそっくりになる理由なんて、だいたいそういうものだから。
 多分父の望みが大きく反映してそうだ。
 そんな、ある意味どうでもいいことに思考を遊ばせるティアリィの目のまで、母がゆっくりと口を開く。

「聞いたわ。貴方、陛下とのことで悩んでいるんですってね」

 その言葉には、特に他意などないように思われた。
 だがまさか母に、そんなことを言い出されるとは予想もしておらず、思わずティアリィは目を見開いて、珍しくも驚きを露わにしていたのだった。
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