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4・初めての国内視察
4-37・見つめ直すこと⑱
しおりを挟むそれは前世の記憶を持っているが故の弊害と言えただろう。
そもそも性別に関係なく子を成せることそのものが、ティアリィにとってはあり得ないことで、理解していながら飲みこみきれていない部分だった。
二人も子を産み落としていてもなお、である。
ティアリィは魔力の操作だけなら苦手ではないという自負がある。
実際ナウラティス国内でも、魔法魔術の分野で、系統によって得意不得意こそあれど、相対的に見て、ティアリィの右に出る者などほとんど存在しないと言って過言ではなかった。
例えばポータルの改良にもティアリィは関わっている。
ただでさえ難しい転移魔術の応用だ。そのようなこと、誰にでも出来ることではない。
子供も望めばいい、わかっている。それで実際に二人出来ているのだから。
同時に、どうやら女性相手になどと、ミスティやアルフェスが側にいることとは関係なく、生まれてこの方、想像出来た試しがないという時点で、性質と感覚に剥離があり、それは少なからずティアリィの人格に影響を与えていた。
本人にあまり自覚はないが、つまり、恋心だとか行為だとか。そういった部分が苦手であるのにそれらの影響が否めないということである。
ここ数年ティアリィが思い悩んできた、ミスティから魔力を注がれても子を成せないことも同じで、ミスティに対して好意を抱いていることを自覚したからこそ、ティアリィの中で子を成すことそのものの意味が変わってしまったがゆえに、注がれた魔力を子と成せなくなっているのだった。
そして自覚がないからこそ、進めない。
どうしようもないジレンマがそこにあった。
ある意味では時間をと言う周囲の意見は正しい。
ミスティから与えられる激情に押し流されている限り、自覚など程遠いばかりなのだから。
ティアリィに必要なのが、自分の気持ちと向き合う時間と心の余裕であることは確かで。それは確かにこの旅で僅かなり得られようとしていた。
自らのこれまでと心そのものを見つめ直すことによって。
ルーファやアルフェスと共に旅が出来たのもいいように作用していると言っていいだろう。
彼ら二人はティアリィ自身の幼少期の象徴のようなものだ。
そしてまた同時に、ティアリィの未熟さを突きつけてくる存在でもある。
その上で此処にはティアリィの両親がいた。
いくら馴染みがなくともここはティアリィの実家と言っていいような場所なのだから。
どれぐらいの時間そうして、もやもやと、何とも言えない気持ちを持て余していたことだろうか。
コンコン、ドアをノックする音にティアリィは、いつ振りかようやく知らず俯けてしまっていた顔を上げた。
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