150 / 206
4・初めての国内視察
4-32・見つめ直すこと⑬
しおりを挟むアルフェスは小さく、おそらくは自嘲ゆえだろう笑みを浮かべて更に話しを続けていく。
「貴方は人の好意には鈍いくせに、それ以外の感情の機微だとかには敏くて、よく僕の気持ちも組んでくれて。優しいから、いつもいっぱい僕を気遣ってくれて嬉しかった。僕はルーファと同じぐらい、貴方に大切にされていた自覚があります。そして僕はそんななたに頼って、甘え切って。……貴方が僕に与えてくれることが出来る以上のものを、いつしか求めるようになってしまった」
それは違う、咄嗟に否定しようとした言葉は、だけどそんな風に話すアルフェスの表情を見ていると、喉につかえて出て来なかった。
「僕の何がいけなかったのか。貴方がどんな理由で僕ではダメだ、そう思ったのか。今の僕はわかっているつもりです。でもあの時はわからなかった。僕は貴方が好きで。貴方とただ一緒に居たかった。貴方と婚約者同士だっていう事実を、とても嬉しく思っていた。でも……」
アルフェスの視線が遠くなるのがわかる。
多分、見ているのは入り江にいるルーファなのだろう。ティアリィではなく、今、アルフェスの隣にいて、彼と人生を共にしている彼女。
「僕は貴方に与えられることだけを求めていた。僕は貴方が好きだったのに、貴方に与えることを考えなかった。貴方が好きなんだったら、貴方の方から触れてくれるのを待つのではなく、僕から貴方に手を伸ばせばよかったんだ。きっと貴方は拒まなかったのに。……そうでしょう? 貴方は当時、陛下のことだって特別に思っていたわけじゃない、それぐらい僕だってわかります。貴方は陛下の手を拒みませんでしたね。僕の手もきっとあなたにとって陛下のそれと同じだったでしょう。でも僕はそうしなかった。恥ずかしい話ですが、あの頃の僕は深く考えたことがなかったんです。でも……閨での役割は重要ですね。今、改めて考えてみても。おそらく僕から貴方に触れることはできなかったでしょう」
珍しく饒舌に言葉を尽くすアルフェスの話はティアリィにとって思い当たることしかなかった。
アルフェスの言うように、ティアリィはアルフェスのことだって大切に思っていたのだから。
そして、当時のティアリィの心情として、アルフェスに向けている想いと、ミスティへのそれに、大きな差などなかったのである。
二人共を幼馴染みとして大切に思っていた。
もしアルフェスが手を伸ばしてきていたなら。アルフェスが今告げた通り、ティアリィは拒まなかったことだろう。
だがそれはいずれにせよ、逆など考えつかない程度の、欲を伴わない感情だった。
17
お気に入りに追加
815
あなたにおすすめの小説


巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中


【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

勘弁してください、僕はあなたの婚約者ではありません
りまり
BL
公爵家の5人いる兄弟の末っ子に生まれた私は、優秀で見目麗しい兄弟がいるので自由だった。
自由とは名ばかりの放置子だ。
兄弟たちのように見目が良ければいいがこれまた普通以下で高位貴族とは思えないような容姿だったためさらに放置に繋がったのだが……両親は兎も角兄弟たちは口が悪いだけでなんだかんだとかまってくれる。
色々あったが学園に通うようになるとやった覚えのないことで悪役呼ばわりされ孤立してしまった。
それでも勉強できるからと学園に通っていたが、上級生の卒業パーティーでいきなり断罪され婚約破棄されてしまい挙句に学園を退学させられるが、後から知ったのだけど僕には弟がいたんだってそれも僕そっくりな、その子は両親からも兄弟からもかわいがられ甘やかされて育ったので色々な所でやらかしたので顔がそっくりな僕にすべての罪をきせ追放したって、優しいと思っていた兄たちが笑いながら言っていたっけ、国外追放なので二度と合わない僕に最後の追い打ちをかけて去っていった。
隣国でも噂を聞いたと言っていわれのないことで暴行を受けるが頑張って生き抜く話です
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する
135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。
現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。
最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる