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4・初めての国内視察

4-29・見つめ直すこと⑩

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 何を、どう話せばいいだろうか。
 自分の中の考えをまとめられず、口を開けないティアリィに、

「……何か、話したいことがおありだったのではないですか?」

 意外にもそんな風、水を向けてきたのはアルフェスの方だった。
 アルフェスはおとなしい。
 子供の頃から、引っ込み思案と言って相違ない性格をしていた。
 いつだってティアリィやルーファの後ろにくっついて、大きな体を丸め、人の、とりわけティアリィの顔色ばかりうかがっていた。
 加えて優柔不断で決断が苦手で、自己主張をほとんどしない。
 かと思えば判断を途中で放棄し、癇癪を起して全てを腕力でどうにかしようとする短絡的な所があった。
 少なくともどちらかというと無口で、自分から率先して話しかけたりなどしない。
 何かを尋ねても、

『えっと、えっと……』

 などともじもじと口ごもる。
 勿論、話せないなどということはなく、特にほとんど共に育ったと言っていいティアリィに対してなどは、自らの考えをごく当たり前に口に出来る所があった。
 いずれにせよ何かを、アルフェスの方から話し始めるということは極端に少なくて。
 そんなアルフェスが自分の方から口を開いた。
 そういった些細なことでさえ、ティアリィにとって、過ぎ去った年月を考えずにはいられないようなことだった。
 目を瞬かせてアルフェスを見る。
 自分は今、改めてアルフェスと言う存在を認識している。
 ティアリィはそんな風に思えて仕方なかった。
 これは誰だろう。そうまで思う。
 アルフェスだ。
 自分の幼なじみで近衛騎士。これまで頻度高くその姿を目にしてきた。
 だが、改めてこうして対峙するのはいったいいつ以来だろうか。
 11年前に婚約を破棄した。
 その数年前から、ティアリィはアルフェスを避けるようになっていた。
 それはアルフェスと、どうにも性質的なものが合わなさそうだと気付いたからで、別に嫌いになっただとかいう理由ではない。
 それでも真っ当に対峙することをさりげなく回避していたのは本当で。
 だから、ああ、本当に何年ぶりだろうか。
 アルフェスはもう大人だ。子供ではない。
 ティアリィもまた、大人になった。
 どころか、お互いに子供がいて、その子供も随分としっかりしてきていて。
 それだけの年数が経過している。
 思わずまじまじとアルフェスを見つめてしまったティアリィからの視線にアルフェスは居心地悪そうに身じろいだ。

「陛下、その……」

 陛下。それはティアリィを称する正しい敬称で、だけどアルフェスにそう呼ばれることは、どうしてもひどい違和感が伴った。
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