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4・初めての国内視察
4-20・見つめ直すこと①
しおりを挟む視察は順調に進んでいった。
こんなに楽しい旅行は初めてだ。否、そういえば旅行らしい旅行など、経験がなかったなとティアリィは思った。
その日は湖の近くを訪れていて、天気もよく、またコルティとレーヴも呼び寄せていたので、予定を少し変更して、子供達と舟遊びをすることにした。
きゃっきゃとはしゃぐ子供たちはかわいらしく、こんな風、穏やかに過ごしていると、心が洗われていくような気がする。
知らず目を細め賑やかな様子を眺めるティアリィに、そっとルーファが寄り添ってくる。
「……少し、気が晴れたようですわね」
よかった。
そんな風に言われ、パチリ、目を瞬いた。
気が晴れた?
「……俺はそんなに思いつめた様子だったかな?」
訊ねると、だけどルーファはふるりと首を横に振って。
「いいえ、それほどでは。でも少しだけ、ずっと元気がおありにならないようには見えました」
それほどひどい様子には見えなかったけれども、それでも、と告げられ、ティアリィは流石にきゅっと眉根を寄せていた。
「ああ、ごめんなさい、お兄様、そのようなお顔をなさって欲しかったわけではないのですけど……」
今度はルーファに申し訳なさそうな様子を見せられ、ティアリィもまた、首を横に振った。
「いや、こっちこそ。顔に出てたなんて、俺がただ未熟だっただけだよ」
力なく苦笑すると、それを聞いたルーファはしんなりと眉尻を下げている。
「そんな……お兄様で未熟なら、それこそ、きっと未熟でない方の方が少ないですわ」
それに人には、元気じゃなくなることもあるものですから。
そこまで言われて、ティアリィはますますなんだか情けない気持ちになってしまう。
もっとも、そもそもが調子を崩しているが故の今回の視察だったかとも思い直したのだけれども。
それにここ最近の自分を思い返せば、ルーファに様子を見咎められても、仕方がないと言わざるを得なかった。
「そう、だね……確かに、ずっと、何もない方がおかしいものね」
生きているのだ。何事も起きないような人生などない。
なら恥ずべくほどでもないかとも思うのだけれど、それでも妹には弱った姿を見せたくなかったな、なんてことも思ってしまう。
勿論それも今更ではあった。
10年と少し前。
アーディを身ごもった時に、すでに散々情けない姿を見せている。
何より、それを厭うような妹ではないことぐらいわかっていた。
そういう問題ではないこともまた、確かではあったのだけれども。
改めて目の前の子供達を見た。
きゃっきゃっとはしゃぐ楽しそうな様子。
なんとも明るい日向のような光景が其処にあった。
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