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4・初めての国内視察
4-15・休暇中の暗躍⑧(アーディ視点)
しおりを挟む「それでは父様。僕はこれで失礼します」
パタン、閉まる扉の向こうへ変わらない微笑みを向けたままミスティの執務室を出たアーディは少しばかり予想が外れたな、だとか、そんなことを考えていた。
最後まで険しかった父親の顔を思い出す。
ミスティは比較的いつもにっこりと微笑んでいて、穏やかな、というか、余裕を持った表情を崩すことなどめったにない。
にもかかわらず今日はずっと苦々しい顔のままだった。
それぐらいにアーディの話は全くミスティにとって受け入れがたいことだったのだろう。だけど。
「そうは言っても、やっぱり僕は必要だと思うんだよね」
ティアリィを思うのなら、アーディがしようとしていることは、抜かさない方がいいだろう、そう思う。可能な限りすべてティアリィの望むままに。そう、考えてしまうのはティアリィがアーディの母親だからというだけが理由ではない。言ってしまえばティアリィが、アーディやミスティよりもずっと、より神に近い存在だからだ。先祖返りと言ってしまえばいいのか。魔力量の多さもある。
それだけでアーディが、ティアリィをより尊重してしまう理由には充分だった。少なくともアーディにとっては。
「アーディ兄様、どうだった?」
先程の父親とのやり取りを思い返しながら、ティアリィの執務室へ向かうアーディにとことこと近づいて話しかけてきたのは、そもそも城で見かけることそのものが珍しい妹で。
ちなみに、何故ティアリィの執務室へ向かっているのかというと、今、アーディがティアリィの執務の代わりを主に行っているのがその場所だからである。
あくまでティアリィの手伝いなど、まだまだ一時的なものであるしと、別の場所を用意させる手間を省いた結果だった。
それはともかく、奔放な妹が覗き込むようにして訊ねてきた言葉へと、アーディは肩を竦めることで答えとした。
「どうもこうも……許可できないって」
「えー、何それ。今更じゃん」
「まぁね」
口を尖らせる妹に同意する。もっとも先程父親に言った通り、許可が下りなかったからと言って、アーディたちの行動が変わる予定はない。
ただ事前に伝えるか伝えないかは重要だと、そう考えているだけのこと。
アーディたちのしようとしていることを知って、無謀だと思う者がいるかもしれないが、アーディたちはそうは考えていなかった。
父親もおそらくは、アーディたちで役不足だとか、そんな風には感じていなかったはずである。
ただ、子供であるから、心配だから。
それは親であるからこその気がかりで。そこに信頼していないだとか、出来なさそうだからだとかいう理由は含まれていないだろうと思われた。
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