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4・初めての国内視察
4-14・休暇中の暗躍⑦(ミスティ視点)
しおりを挟む更に続けてアーディはミスティを追い詰めていく。
「あの国へとこっそり赴くには転移が有用なのは父様もお判りでしょう。加えて母様の憂いを払う準備を事前にするには、ある程度の実力となにより信用がいる。勿論、僕自身が動く必要なんてないですし、そんなの理由なんて、言ってしまえばただ手っ取り早いってだけなんですけど、でも、時間がないのが確かなのも間違いありません。あまりぐずぐずしていると、母様自らが動き出してしまわれるでしょう。そうなった時に僕は、少しでも母様が直接あの国の現状を見るような状況を避けたいと考えています。話を聞く限り、きっと母様は僕よりも、そういったことにより大きなショックを受けられるでしょうから。幸いにして母様は今、国内視察に赴いていて、何より夏季休暇中で、リアラクタ王女との関りも必然的にしばらくは遠くなっています。だから可能なら僕は夏季休暇中にある程度の目途を立てておきたいんです」
つらつらと言い募るアーディから伝わってくるのは、ティアリィへの気遣いだけだ。
あるいは彼自身の興味関心などもあるのかもしれないが、そんなものは些末なものだろう。少なくともミスティにはそんな風に感じられていた。
珍しく顔を険しくするばかりのミスティを前にしても、アーディの態度は全く崩れない。
「父様もおそらく、僕と同じような判断をなさっていらっしゃるはずです。母様を、あんな国には出来るだけ関わらせたくないと」
「だからと言って、ならお前を直接、だなんてそんなこと、僕はやっぱり許可できない。何よりお前はまだ子供だ。ただでさえ今、これほどまでに仕事に従事させていることもよくはない状況なのに」
どれだけ告げられても、ミスティが頷けるはずがないことに変わりはなかった。
アーディはまだ10歳。先程、共にと言っていたミーナにいたっては8歳で、グローディでさえ12歳なのだ。全員がまだ子供だった。
「父様。先ほども言いましたが、父様からご許可頂けなくても僕は動きます。何故ならやはりその方が、母様の助けになるだろうと思うからです。だけど同時にこれは決して、母様に知られるわけにはいきません。だけど父様にはお伝えした。その理由はおわかりでしょう?」
自分の意思を、微塵も曲げる気のないアーディの様子に、ミスティは溜め息を吐くことしか出来そうもなかった。
本当に。この話はいったい何なのだろう。
「それはつまり、僕に共犯者になれとでも言っているつもりなのかな」
不機嫌に吐き捨てるミスティに、アーディはにっこりと頷いた。
「そうですね。そう取ってもらっても構いませんよ。だって結局父様はこのことを、母様には伝えないでしょうから」
ミスティは頭が痛くなりそうだと、そう思う。少なくともアーディの言うように、この話をティアリィに出来ないだろうことだけは確かなのだった。
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