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4・初めての国内視察
4-10・休暇中の暗躍③(ミスティ視点)
しおりを挟むミスティは思いっきり眉根を寄せた。許可しないと表情で答えるかの如く。
キゾワリ聖国に赴く。そう告げながら実際にアーディが、公的に彼の国に赴くつもりだなどとは到底思えない。
申請書なども何もなしに口頭だけで許可を取ろうとしている辺りがいい証拠だ。
そもそもナウラティスにはあの国へと赴く理由が何もない。
敢えて理由付けできるとすれば、留学中の我が国の貴族が、彼の国の王女に宜しくない態度を取られていることの抗議、ぐらいだろうか。
しかしそんなもの、書面の一つでも送ればいい話であり、わざわざ足を運ぶ理由になど出来るはずがないのは確かだった。
そしてだからこそアーディはおそらく、一応はとミスティの許可を取りに来たのだろう。
正式な訪問になど出来ないからこそ、ひとまずはとミスティの承諾だけでも得ようとしている。
勝手に動く前に告げてきたことを評価するべきか否か。
しかし、それはそれとして。
「……何故、その許可が下りると思ったの」
当然、言葉でもはねつける。理由を問うという方法で。
だがアーディはあからさまに剣を帯びたミスティの態度など、全く気に求めていない様子でひょいと小さく肩を竦めて見せた。
「母様がご自身で動かれるより、僕が先に手回ししておいた方がいいでしょう? 理由などを考えると、父様なら最終的にご許可下さると思っているからですよ」
ひょうひょうとそんなことまで宣うアーディの様子は、到底まだ10歳の子供だとは思えないほど老獪と言えそうなものだった。
そんな経験など、与えてはいないはずなのだけれども。
優秀なのは理解していたけれども、この様子はあまりにも可愛くない。否、子供に子供らしくあって欲しいと思うのが、周囲の大人が抱くエゴなのはわかっていても、これは絶対に違うとミスティは自信をもって言い切ることが出来た。
とは言え、自分のかわいい子供のうちの一人であることに違いはない。
キゾワリ聖国ははっきりきっぱり評判が良くなかった。否、評判どころではなく、いい話を一切聞かないのである。
むしろその逆ならいくらでもあるぐらいに。
少し前にティアリィの元へと、フデュク商会より彼の国に詳しい者が訪れたという話は聞いている。
そこでもたらされた話も。
だからこそ予想以上に腐敗が進んでいるのは把握していた。
同じように彼の国についてを知ったアーディがこんなことを言い出したということも。
だが、ならば余計に許可など出せるはずがないのだった。
「アーディ。君がどう思っているのかは知らないけど、僕だって自分の子供をかわいく思う気持ちぐらい持っている」
そしてだからこそ危険からは遠ざけておきたいという希望も。
アーディはにこりと微笑むばかりだ。
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