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4・初めての国内視察

4-8・休暇中の暗躍①(ミスティ視点)

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 会いたい。
 ただそれだけを思う。
 ミスティがティアリィとこれほど長く離れるのは、初めてのことと言ってよかった。
 アーディが離れていた方がいいと提案した期間は三ヶ月と聞いている。
 同時にティアリィがひとまずはとのんだ期間だ。
 気が遠くなるような長さだ。正直な話、うんざりした。
 少し距離を置いた方がいいというアーディの話は分かったし、ミスティ自身も、その必要性は理解している。
 それこそ、あんなことをティアリィに繰り返し行いたいわけではない。だが、自分がともすれば嫉妬に駆られ、何をするかわからない所があることは流石に自覚せざるを得なかった。
 それらを回避しようと思えば、自制するより他にない。
 わかっている。だけど恋しい。
 会いたくて会いたくてたまらない。
 仕事をしていても、夜寝ていても、食事を摂っていても、入浴中も排泄中も、いつも考えるのはティアリィのことばかりだった。
 色々な彼を思い出す。出会ってからこれまで。
 キレイで可愛くて欲しくって。
 彼しか要らなかった。彼だけが欲しかった。
 ずっとティアリィだけを見てきたのだ。ミスティのこれまでの人生は、ティアリィを求め続けたそれだったと言っていい。
 片時も離れたくなんてなかった。ずっと一緒に居たかった。
 本当は仕事中だって離れたくないのだけれど、彼はそういったことを疎かにすることを嫌うから、嫌われないために皇帝業に勤しんでいると言っていい。
 だというのに今は遠くて。物理的にも。何より……心が。否、心は、本当は。寄り添えたことなど、なかったのかもしれない。
 ずっと、心がけて、近く、近くと、歩み寄り続けたつもりなのだけれども。
 自分の行動が悪かったのだろうか。ずっと求め続けるばかりで、ティアリィの気持ちが追いつくのを待てなかったから?
 だとしたらやはり自分が悪いのだろうと、ミスティは打ちのめされる気分で仕事をしていた。
 気分は全く上がらず、うつうつとするばかり。だけど落ちない処理スピードで仕事を片付けていたさなか、ノックの音に顔を上げる。
 執務室付きの侍従の誰何の声。扉の外の護衛と幾つかのやり取りを経て。

「陛下、アーディ殿下がいらっしゃったようです」

 その言葉に頷いた。

「いいよ。入室を許可して」

 実際の所、これまで拒否したことなんてないのだけれども。逆に此処まできっちり手順を踏むのも珍しい。否、アーディはそういう所があったなとも思い直した。
 あの子は年の割にしっかりしすぎていて、いっそかわいくないほどなのだ。
 もっとも、そもそも執務室にまで来ること自体が稀なのだけれども。
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