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4・初めての国内視察
4-4・懐かしむ
しおりを挟むアルフェスはまっすぐだが、そうであるが故か融通が利かないところがあった。
加えて少々武に頼りすぎる所があり、また非常に優柔不断だった。
決断力に欠けているのだ。
その辺り、ルーファとは逆である意味ではお互いを補い合える、バランスの取れた夫婦と言えなくもなかった。
しかし、子育てに対しては少し違うらしい。
自分の子供を、アルフェスがそんな風、厳しい言葉で評するなんて思ってもみなかったので、ティアリィは少し意外に思う。
これではおそらく、ルーファの方が子供には甘いのかもしれない。
「ティアリィ? どうかした?」
余程驚いた顔でそちらを見てしまっていたのか、アルフェスが訝しげに訊ねてきたので、ティアリィは慌てて首を横に振った。
「ああ、いや、レーヴ、反抗期なんだなって思って」
「ああ。そう言えば長く会ってなかったっけ。最近ルーファに対しての態度がひどいんだよ。ここに来る前もなんだかよくわからないけど癇癪を起して」
どうやらほんのついさっきとも言える今日、出かける直前にも何かひと悶着あったようで、余計にアルフェスの機嫌が左右されていたらしい。
幼児の数ヶ月というのは大きい。しばらく会っていない間に様子が変わっているのだろうとティアリィは頷いた。
「そうなのか。早く落ち着くといいね」
「本当に」
反抗期というのなら、ずっと続くわけでもないのだろうとそう思ってのティアリィの言葉に、アルフェスは深く頷いた。
なんだか不思議な感じがする。
学生の時はこんな風に、いつか子育ての話をしたりするような間柄になるとは予想も出来なかった。
未来のことなんて何も考えられていなかったと言っていい。
あの時は、アルフェスとの婚約をどうにかしたいと思っていて、それにルーファもまた、少々問題のある行動が多く、それに振り回されていた。
こうして三人でいると、一気に当時のことを思い出してしまう。
それでも。その時から、ティアリィの一番近くにいたのはミスティだった。
アルフェスとルーファとティアリィでは学年が違うということもあって、どうしても共に行動していたのは同じ年のミスティで、ミスティと二人で世話を焼いていた、迷い人のアツコだった。
それから10年と少し。
長かったのか短かったのか。振り返ってもよくわからない。
「お兄様もアルフェスも、それよりは今は先に進みましょう? ゆっくりお話しするのでしたら、馬車の中でも宿でも出来ますわ。港町、なんですのよね? 何があるのかしら。港には行きますの?」
つい、歩みが遅くなってしまっていたティアリィとアルフェスを見咎めてか、ルーファがふわりと先へと促してくる。ティアリィは頷いて気持ちを切り替えた。
ルーファの言うとおり、昔を懐かしむのなんて、今でなくてもいい。これからしばらく共に過ごすのだ。いくらでも機会は訪れることだろう。
「そうだね。港にはこの後向かう予定だよ」
「そうなんですのね。どんな船があるのかしら」
「ここは他国との貿易もしているから、多分……――」
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