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3・偽りの学園生活
3-79・楽しみな夏季休暇(ピオラ視点)
しおりを挟む母のあの鈍さは、むしろ才能かなのかなのではないかとさえ、ピオラは思っている。
ユーファ殿下も本当にかわいそうに。
ちゃんとしっかり、かなりあからさまにアピールしているようなのに、何も伝わっていないだなんて。
それがおかしくなくて何だというのか。
夏季休暇の話を聞いた時に、ピオラは笑いが止まらなかった。おかしくておかしくて。
あまりに笑い続けるから、アーディにもコルティにも微妙な顔をされてしまったのだけれども、仕方がないとピオラは思う。
加えて母は、しばらく父と距離を置くのだそうだ。少なくとも夏季休暇が終わるまでは合わないのだとか。
ほんの少し、何処か。寂しそうにしている母のことは気になった。でも。
ユーファ殿下とも、おそらくは会うおつもりがないというのはきっと悪いことではないわね。
心の中で小さく呟く。
そもそも、今回、両親が距離を置くにまで至った理由を、ピオラはアーディから聞いていた。
父が母に何をしたのかも。
正直、話を聞いてピオラは当たり前に憤ったり、許せないと思った。声を聞いたのだというアーディが、母を心配していたぐらいなのだ。父はいったいどれほどの憤りを、母にぶつけたというのだろうか。
途中から状況は変わったようだったとのことだが、それでそれまでのことがなかったことになるわけではない。
母が味わったのだろう、苦しみや痛みを想像しては、ピオラの胸は張り裂けそうだと思ったほど。
にもかかわらず、母はそうされてなお、父に害されたとは考えていないのだそうだ。
まったく母らしい。
だが同時に、それほどの暴挙に出てもなお、母に伝えられなかったのだろう父に溜飲が下がる想いだった。
怒りや憤りが。相手に正しく伝わらないことほど、空しいことはない。
父の行動は、母相手には悪手だったということだ。
だからこそピオラは、父に対して、それ以上思うことはなかった。もうすでに充分、他でもない母から。きっと、罰を与えられたに等しいだろうとも思ったから。
その上、しばらく距離を置かされて、会えもしない。父が気の毒なほどだった。
そして、そんな父の暴挙の原因とも言えるユーファ殿下。
父と母が距離を置いている間に、その元凶とも言えるユーファ殿下と母が、近しく過ごすだなんて、どう考えてもいいとは思えなかった。
父と母がしばらく離れるとは言っても、それも結局は一時的なものにすぎないだろうとピオラは予測している。
ならばこそ、再び同じ時間を持つ際に、禍根となりそうなことなど、少ない方が望ましい。
でも、それはそれとしても。
あんなにわかりやすく誘っても、全く何も伝わらないんだなんて。これがおかしくなくて何だというのか。
ピオラは止まらない笑いの中で、それでも未来の旦那様のことなのだから、少しぐらい慰めてあげよう。夏季休暇中に母ではなく自分自身が、ユーファ殿下との時間を取るのはきっと悪いことじゃない。そんな風に考えて。自分から誘ってみるのもいいかもしれないな、なんて。存外に面白くなりそうなもうじき始まる夏季休暇について、じんわりと思いを馳せたのだった。
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