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3・偽りの学園生活
3-73・嫉妬の対象
しおりを挟む「母様。父様の行動の理由なんて単純なんですよ。どうして母様がそれに思い至らないのか、僕からしたら不思議でなりません。だってあんなの、ただの嫉妬なんですから」
アーディの言葉に、ティアリィは目を丸くして驚いた。
「嫉妬……?」
あれが、ただの嫉妬だと?
あの激しい激情は、つまり嫉妬ゆえのものなのだとアーディが言う。心当たりがまるでなかった。
「どうして、嫉妬なんて……」
それはいったい何に対して。
「わからないんですか? 本当に?」
そう、問いを重ねられても、ティアリィにはわからない。
だって、ミスティが嫉妬するようなことなど何もなかったはずなのだ。
ここ数日を思い返す。いつもと違うことと言えば、コルティやピオラを連れて街へと買い物に出たことぐらい。だが、一緒に出掛けた相手は、自分たちの娘たちだ。子供に嫉妬だなんて。
否、ミスティならそれも決して不自然ではないのだけれど。
「まさか街に買い物に出たから? でも、たまにはコルティにもかまってやらないと……」
眉根を寄せて躊躇いがちに心当たりと言えなくもないことを口に出したティアリィに、アーディは明確に溜め息を吐いた。どう控えめに聞いても呆れている。
「違いますよ。はぁ。まさか本当にわからないなんて」
そんな風に言われても。ならいったい何に嫉妬したというのか。
「ユーフォルプァ王太子殿下。ご一緒だったそうですね」
そこまで言われて、ようやく思い出す。そう言えばユーファ殿下と途中で行き会った。そのまま案内してくれるというので、行動を共にしたのだが。
「まさか。相手は子供だぞ。それにピオラの婚約者候補だ」
嫉妬する対象じゃないだろうと首を傾げるティアリィに、アーディはあきれ果てたとばかりに首を横に振った。
そもそもティアリィの中で、ユーファ殿下のことなぞすっぱりと抜け落ちていて、そう言えば一緒だったなと指摘されなければ思い出さないぐらいだった。
それぐらいにティアリィは、彼に関心を向けていない。否、ピオラの婚約者候補としては見定めなければとは思っているのだが。
「でも、身内ではない、若い男性です。子供と言っても、もう16になるのでしょう? そこまで小さいわけじゃない、父様にとったら充分な脅威ですよ」
自分の娘の婚約者候補が? そんなもの、自分たちの子供みたいなものなのに。
納得しかねると言ったティアリィの様子にアーディは仕方がないとばかりに肩を竦めて。
「身内じゃない、幼すぎないってだけで充分なんですよ。てゆーか、子供以外が母様と一緒にいるってだけで父様は充分に嫉妬するでしょ」
なにせ父様は独占欲の塊みたいなものなんだから。子供にだって嫉妬するのに。
そこまで言われてはティアリィも、そういうものなのかと飲み込むしかなく、納得できないまでも、覚えてはおこうと頷いた。
「そう言うのも含めて、母様はちょっといろいろ考えた方がいいですよ」
困ったように笑うアーディは、本当に自分には過ぎた息子だとしか思えなかった。
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