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3・偽りの学園生活
3-71・息子の気遣い
しおりを挟むどれぐらいそうして涙を流していたことだろうか。
コンコンとノックの音が聞こえてきて、ティアリィは入出の許可を出した。
「母様? 入りますよ」
そう言いながら顔を出したのはアーディだった。
何処か困ったような顔をしている。
その顔を見て、どうやらアーディは、昨夜、ティアリィとミスティの間に起こったことを知っているようだと悟った。
気まずい。
まさかあんな夫婦間の揉め事を子供に知られてしまうだなんて。
ティアリィが気まずく思っていることに気付いたのだろう、アーディが困ったように肩を竦める。
「僕も可能なら気付きたくなんてなかったんですけどね。仕方ないじゃないですか。父様は我を忘れていたようだし、母様にもそんな余裕はなかったでしょう? 戸惑った侍女や護衛が指示を仰ぎに来たんですよ」
その言葉で、アーディだけではなく、他の者にも昨夜の色々が伝わってしまっていることを知った。
居た堪れない。
だが、アーディの言うとおり、昨夜のミスティはどう考えても理性を飛ばしていて、ティアリィにも勿論、余裕などどこにも存在しなかったのだ。他を気遣えたはずがない。
「よっぽど途中で止めに入ろうかとも思ったんですけど……」
そんなことまで言われて、ティアリィはふるり、首を横に振った。
「いや。入らなくていい。助かったよ」
止めに入る、ということは、あんな最中の場面をアーディに見られたかもしれないということだ。それはティアリィにとっては耐えられないことだった。どれだけ自分がミスティによって、めちゃくちゃに傷つけられていたとしても。そんな目にあうこと自体よりも、それを見られてしまうことの方が、ティアリィには耐えがたいことなのである。それぐらいなら、傷ついた方がまだいいと思うぐらいで。
だから別に止めに入られなかったことは、むしろそれでいいとティアリィは応えたのだった。
「でしょうね。母様ならそう言うと思いました。もっとも、途中から母様の様子も変わってきていたみたいなので、とりあえず僕の方で結界を張って、様子を見ることにしたんですけど」
とは言え、どうも詳細を察せられているようで、居た堪れないことに変わりはなかった。
ティアリィは溜め息を吐いて、そこでようやく体を起こした。
「大丈夫ですか? 母様」
アーディが気づかわし気に近づいてきて、そっとティアリィを支えてくれる。
いくらしっかりしているとはいえ、まだたった10歳の子供なのに。そう思うと、自分が情けなくて仕方がない。
「すまない」
「いいえ、構いませんよ」
小さく謝罪の言葉を口にすると、アーディはふると首を横に振って、だけどやはり気づかわしげに、そっと小さく微笑んだ。
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