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3・偽りの学園生活
3-67・最悪の夜④(ミスティ視点)
しおりを挟む部屋を出た。
そのまま、一緒に眠る気になんてとてもなれなかった。
部屋を出て、バタン、閉めた扉にもたれかかって、ずるずるとそのままへたり込んだ。
項垂れて、何処ともなく、廊下の床へと視線を彷徨わせる。
脳裏にあるのは先ほど見たティアリィの姿。
ぐったりと青い顔をして気を失っていた、ミスティの最愛だ。
その最愛に、いったい自分は何をしたのか。
「ティアリィ……」
苛立っていた。限界だった。
早く、戻って欲しかった。
彼の心が、自分にあることを知っていても。それでも、彼に明らかに好意を寄せている存在の側になんて、いて欲しいはずがない。それに対して、何も思っていないはずがなかった。
だが、だからと言って、あんなこと、していい行動でなど決してありはせず。
「うぅ……」
情けなくて涙が滲んだ。
好きなんだ。愛している。彼しか要らない。ティアリィはミスティの全てだ。なのに自分がしたことは何だ、あんなの、暴力と何が違うというのか。
ティアリィはミスティを拒まない。だが、それは、今もなのだろうか。
今度こそミスティは自信がなかった。
ミスティは、ティアリィに対して、随分と勝手にふるまってきた自覚がある。特に求める気持ちが強すぎて、拒まれないのをいいことに、彼の気持ちを無視することなど決して珍しいものではなかった。
それでも、彼への気遣いは忘れていなかったつもりだ。
だが。
どれだけ思い返しても、今夜の自分の行動に、そんなもの何処にもありはしなかった。ただ、一方的に彼を求めて、自分の衝動を抑えられず。
ティアリィを、害したかったわけじゃない。ましてや、彼に対して悪意など。
その証拠に、守護結界はミスティを妨げず、ミスティがティアリィへと、随分な無体を働くのを許したのである。
ミスティはもう、わからなかった。悪意とは何だろう。害意とは。
そのつもりがなかった。そうと認識していなかった。なら、どのような行為であれ、悪意や害意があるとは見なされないのか。
勿論、その限りではなく、受けた側が悪意、あるいは害意だと受け止めた瞬間、それらを行った者の意識にかかわらず、それは害意、あるいは悪意と見なされることは理解している。
つまり、あんな行為に晒されてなおティアリィは、ミスティに悪意や害意があるとは考えなかったということだ。
それでも、今夜のミスティの行動が、暴力であることは間違いなかった。
ティアリィを傷つけた。
その事実だけが、重く、ミスティを打ちのめしていた。
どれぐらいそうしていたのだろう。
カツン、近づいてきた軽い足跡と慣れた気配に顔を上げた。
姿を見せたのは、出来すぎなぐらいよく出来た自分の息子で。
「アーディ……」
名を、呟いたミスティの前で。アーディは困ったような顔まま、ぎこちなく、気まずげに微笑みを浮かべていた。
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