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3・偽りの学園生活
3-64・最悪な夜、その前に。(ミスティ視点)
しおりを挟む元々ミスティには自分が苛立っている自覚があった。
そもそもからして、長期化しているティアリィの不在はミスティから余裕を根こそぎ奪っている。
ただでさえ近頃はティアリィに触れる際、苛立ちが隠せなくなっていて、ひどく攻め立てながら、帰ってくるよう迫ることさえあったというのに。
そこへ来てデートである。
ちなみに、その報告が紙であったこと自体は、実は何ら関係なく、何なら読んだ後彼の報告書を、どうせ控えはあるだろうとビリビリに破いて少し留飲を下げたぐらいで、自分の息子はそれも見越して紙にしたのかと疑うほどだった。
だから結局、問題は内容だったのだ。
休日のおでかけはいい。報告は受けていた。
曰く、最近寂しい思いばかりさせているコルティと触れ合う為に、街に連れ出すと、そう。
ピオラも一緒だと聞いて、楽しんでくるといいと言って送り出した。
そこでまさかどこぞの小僧と合流して、剰え二人だけで過ごす時間まで出来てしまうだなんて想定外もいいところだ。と、言うか、出会ったのは偶然だというが、それこそ疑わしいとミスティは考えている。
ナウラティス側に作意がなかったのは確かだろう。皆、ティアリィの本来の立場を知っている。ピオラは言わずもがな、流石にそんなことをするはずがない。
だが、あの小僧の方はどうだろうか。腐っても一国の王太子。ティアリィの、否、ティールの休日の予定ぐらい、調べるのは造作もなかったことだろう。特に今回はお忍びとは言え、ファルエスタ王都の街中に出ている。ナウラティスへ帰ってきたり、ファルエスタの王宮で相談に乗っていたりだとかする時と違って、逆に予定は探りやすかったのではないかと思うぐらいだった。
ピオラの話では、ファルエスタ側には事前に報告しなかったということなのだが、侍女や護衛も連れている以上、正式な報告として知らされることがなくとも、使用人単位の話などになれば、準備の段階で察せられたりしている可能性は充分に考えられた。
まさかファルエスタ側から借り受けている侍女や護衛が、ティアリィの意図しない報告をたとえ本来の主に対してであったとしても行っているとは思えないが、その更に下ともなると、管理しきれないのが実情だろう。
特に今ティアリィがいる所はナウラティス国内ではないのだから余計に、だ。
ファルエスタの国王夫妻側がティアリィを信頼していて、そういったことまで探ったりしていなかったとしても、おそらく王太子は違う。
そもそもティアリィの本来の身分さえ教えられていないのだ。ティアリィを不用意に探るその意味や危険性など、正確に認識できていないに違いなかった。
あえて探らないことで信頼を示すということの意味さえ分かっていない子供。
中途半端に力を持つ子供ほど厄介なものはない。
今回はそうした意図が、あくまで好意ゆえに、たとえ休日であっても、少しでも行動を共にしたいという、ある意味では可愛らしいとさえ言える動機から来ていたがために、街中で出くわした時にも、ティアリィはただの偶然だと認識した。
そもそも、そこに悪意や害意がないことも確かだったのだろう、他の護衛やピオラ、コルティが怪しんだところで、ティアリィが許容してしまえばそれまでだ。
彼女らはおそらく何も言わない。何かを言ったはずがない。その代わりのようにミスティの所にまで、常よりも詳細な報告が上がってきたのだろうと思われる。
彼の小僧自身には多少の作意こそあれど、悪意などは微塵もなく、また、ティアリィが彼の行動を許容してしまったが故に。それを踏まえた判断を、ミスティは仰がれたということだった。
もっとも、ティアリィが受け入れてしまった以上、ファルエスタ側に何らかのアクションを取るだなんてことは出来ない。精々何かの折に少々苦言を送れる程度。
だが、そんな状況に至らせたティアリィに対しては別だった。
などと色々な理由をつけたところで、結局ミスティは、嫉妬でどうしようもなくなったというだけの話で。でなければあんな方法を取るはずがない。だってあんな行動。どう考えても悪手だったのだから。
何のことはない。つまりミスティは、自分を抑えられなかったのである。それがあの夜の全てだった。
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