上 下
99 / 206
3・偽りの学園生活

3-60・素晴らしい休日(ピオラ視点)

しおりを挟む

 ユーファ殿下の好意は、誰が見てもあからさまだった。
 ティールが気付いていないのが不思議でならないぐらいには。
 だって、まだたった6歳の少女でさえ、少し接しただけで気付くぐらいなのだから。

「ねぇ、ピオラ姉様、あれ、宜しいの?」

 くいと手を引かれて妹にそう訊ねられ、ピオラは思わず笑ってしまった。

「コルティも気付いたの?」

 穏やかに訊ねると妹はこくり、素直に頷く。

「あんなの、気付かない方がおかしい・・・・わ」
「でも、母様は気付いておられないわよ?」
「母様はおかしい・・・・から仕方ないの」

 明け透けで端的な評価は、しかしどう考えても間違えてはいなくて、ピオラはますます笑いを深くした。
 いつまでも甘えたで、母親が大好きなコルティがそういうぐらいなのだから母の鈍さは筋金入りということだ。
 そしてコルティにとって、母を大好きだと公言してはばからないことと、母をおかしいと評することは、何ら矛盾しないことなのだろう。
 確かにおかしい、だなんてそんなもの、その相手への好悪には影響しないことなど容易にあり得た。とても単純な話なのだ。

「それより、問題はピオラ姉様でしょう? 婚約者候補とお聞きしていたと思ったのだけれど」

 母のことよりも、とちらと上目遣いで見上げられる。
 これは心配してくれているのだろう。察して、心があたたかくなる。
 自分の周りは、自分を大切にしてくれる、あたたかい人ばかりだ。
 両親はもとより、護衛や侍女、友人に弟妹、更にはいずれは親子になる予定の相手のご両親まで。
 皆、ピオラを心配していたり、すまなさそうにしていたり。なんてありがたいことだろうか。
 もっとも、そんな風に心配になるほどに、ユーファ殿下があからさま過ぎるのだけれども。

「いいのよ。お母様に好意を抱かれるだなんて、むしろお気の毒だと思うぐらいよ」

 何故なら、ユーファ殿下の好意は絶対に届かない。母がそれに気付けたとしても、受け入れることがあり得ないこともまた、誰もがわかっていることなのだ。
 父は絶対に母を逃がさないだろう。
 今は少し仲がこじれているようだけれども、そんなことぐらいであの母が父から本当に離れてしまうとも思えない。
 伊達に十年も連れ添ってきてなどいないのだから。
 それら全てがわかっていてなお、コルティはピオラを心配してくれている。
 コルティはピオラの返事を聞いて、これでもかと口をへの字に曲げた。
 どうもピオラの言葉はお気に召さなかったらしい。子供らしい様子が微笑ましかった。
 その上、それで出てきた言葉が、

「ピオラ姉様もおかしい・・・・のね」

 これである。
 ピオラは再び笑った。
 自分の妹はなんて可愛らしいのか。

「そうよ? だってお母様の娘ですもの。きっと貴方もおかしい・・・・わね」

 それは言い換えれば母に似ているということ。自分たちにとっては、何も恥ずべきことではない。
 その証拠に、ピオラに笑いながらそう告げられたコルティは、何処か面映ゆそうにしていて。

「……母様に似ている・・・・のは嬉しいけれど、おかしい・・・・のは少し嬉しくないわ」

 なんてぼそりと呟くのだ。
 本当に全く! なんて素晴らしい休日だろうかとピオラはいつになく浮かれた気分で、

「それはそうとコルティ、何か見たいものがあったんじゃなくて?」

 コルティの意識を、本来の目的へと誘導してあげることにした。
 そうだった! と慌てて目当ての棚を目指し始めたコルティが、実は少しばかりユーファ殿下を試そうとしていたことにも気づいていたけれど。そんなことは、この楽しいお買い物には、まったく関係のないことなのだった。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

番だと言われて囲われました。

BL
戦時中のある日、特攻隊として選ばれた私は友人と別れて仲間と共に敵陣へ飛び込んだ。 死を覚悟したその時、光に包み込まれ機体ごと何かに引き寄せられて、異世界に。 そこは魔力持ちも世界であり、私を番いと呼ぶ物に囲われた。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る

112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。 ★本編で出てこない世界観  男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。

侯爵令息は婚約者の王太子を弟に奪われました。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...