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3・偽りの学園生活

3-57・休日⑧

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「街は初めてですか? なら、案内しますよ」

 ユーファ殿下は、どうやらこれまでもこうして街に出てきたことがあるらしい。他国民であるティール達より、よほどこの周辺には詳しいらしく、にこやかに笑いながら先に立って案内し始めた足取りに迷いは見られなかった。

「何か見たいものとかありますか?」

 訊ねられ、少し迷う。
 ピオラを窺うとにこにこしているばかりで、ではコルティはというと、こちらはこちらで迷っているらしい。
 うーんと、と、小さい頭が少し傾いで、転びそうになっている。
 おっと。
 つないだままの手を少し引いて、注意を促すと、はっとしたコルティは姿勢を正した。

「コルティ様?」

 咎める、というほどでもないけれど、名前を呼ぶと気まずそうな視線が寄越されて、ティールはぴくと片眉を上げた。
 そうするとコルティは小さく肩を竦めて、今度はユーファ殿下の方を見上げる。
 視線に気づいたユーファ殿下は、にことさわやかに微笑みを返していて。相変わらず明るい雰囲気の人だなとティールは思った。

「ねぇ、お兄さん、なら私、髪留めが見たいわ!」

 女の子らしい希望だ。
 幼いなりにおしゃれに興味が出てきたらしい。
 ユーファ殿下が頷く。

「髪留めか……なら宝石、雑貨屋……いや、少し先に装飾品を置いている店があったはずです。そこになら髪留めもありますよ。ティールも、ピオラ殿下もそちらでよろしいですか?」

 ティールやピオラにも確認を取ってきてくれたので、ティールはこくりと頷いた。

「そこでいいですよ」

 そもそも、別に今日は特別目的があったわけではない。
 コルティが髪留めが見たいというのなら、まずはそちらに向かえばいいだろう。
 ピオラも頷いている。同行している他の者たちにも否やはなく、皆でぞろぞろとユーファ殿下の案内に従って、装飾品を置いているという店に向かった。
 辿り着いたのは随分と広い、しかし可愛らしい印象の店でなるほど、女の子が喜びそうだ。案の定コルティは店に着いた途端、目を輝かせて、ティールの手を振り解いて走り出す。

「あ、ちょっと、コルティ様!」

 呼び止めたが止まらない。

「ティール、私が行きますわ」

 ティールが追うよりも一歩早く、ピオラが幼い背中を追いかけていった。他の女の子たちも後に続いていく。

「あ、ああ、はい、お願いします」

 言葉少なにコルティを頼み、そうして残されたのは、案内してくれたユーファ殿下とティールのみ。
 ちらとユーファ殿下の方に視線をやると、彼はやはりにこと、とても感じよく微笑んでいた。
 それはいつも通りの笑みだった。
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